本好きの秘密基地

読んだ本への思いをありったけ書いていきます。読みたい本探し、本の感想を共有したい、おすすめ本がある(いつでも募集中だよ)。そんなアナタの場所でもあります。コメント欄で意見などを待っています。(誹謗中傷NG)

告白/町田康

今回は町田康さんの『告白』を紹介します。

第41回谷崎潤一郎賞受賞朝日新聞識者120人が選んだ平成の30冊第3位

平成を代表する小説という貫禄にも興味をそそられるのですが、私が興味を持ったきっかけは大きな帯に書かれた中央公論新社の新入社員さんの熱烈な紹介文です。

↓こちらが帯バージョン!

見た目のインパクトもすごいけれど、紹介文に衝撃を受け、是非読みたいと思いました。

解説を含むと850ページ。厚さ約3.5cm。

読みたい気持ちは山々でしたがやはりこの厚さを見て読破する自信を削がれ、購入から1年が経過。このままでは負けた気がすると思い、帯のご安心くださいを自分に言い聞かせて鼓舞し、ついにページを開くのです!(大袈裟)

 

目次

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あらすじ

河内音頭にうたわれている実際に起こった大量殺人事件「河内十人斬り」。その犯人である城戸熊太郎の幼少から最期までの物語。

 

感想

たしかにこれは読んで間違いない大傑作です

河内十人斬りの犯人が主人公という前情報があったので、暗くて憎悪まみれたお話かなあ……と、こわいこわい思いながらも怖いもの見たさで読み始めたのですが

全然違った

おもしろかったり、微笑ましかったり、同情したり、アホだったり。もう拍子抜けです。最高。

セリフが河内弁だから、さらに緩さが増して怖くなかったのかもしれません。

明らかに長いお話だったので、普段はしない他作品との並行読書をしていました。なので『告白』読書期間が結構長く、ほぼ毎日のように河内弁を目にしてきたので影響を受けまくり、たまに日常会話や独り言で河内弁っぽい喋り方をしていて完全に方言がうつっていました(もともと影響は受けやすい)

 

熊太郎は幼少期から殺気だったヤバい奴かと思っていたら違ったの

まあ、賭博だの酒だの遊んでばっかりで、そこはヤバい奴ではあるけれど。

不器用で上手に生きることができない。だけど、不器用なりに一生懸命どうしたら皆みたいに生きていけるのかを考えたり、行動に移したりして、でも空振りして。報われないとはまさにこのことだなと思って、同情したり応援したくなるような、そんな人でした。

熊太郎の考え事は誇大妄想に発展したり、単純すぎたりして、そこがおもしろくて微笑ましいから憎めないのです。

熊太郎の胸の内を知る読者から見れば、彼を軽蔑したり馬鹿にしたりする周囲の人は冷たい人に見えてしまいます。(私はそうだった)

でも、多分私がその周りの人だったら、彼は変人に見えるだろうから同じようにしていたかもしれない(一瞬にして裏切る)

この物語をおもしろく書けるのは町田さんだからなのだろうなと思います。(初読みなのに知ったかぶり)

 

時代と舞台の関係で河内弁のなまりが強くて読みづらさはあるものの(前述のとおり、慣れてくるとスラスラ読めるを通り越して方言がうつる)、テンポが良いので読みやすいし、ナレーションがすごくおもしろいんです

マジとかいう現代語が時々混ざるし、描写がわかりやすい上におもしろい表現だし。例えば「ずぶ濡れになっている自分」のことを「ずくずくの自分」と表現していたり。

そして定期的に来る「あかんではないか」「阿保である」という町田さんの一言。これが私のツボで、出てくる度に「来た!」と1人で喜んでいました。楽しみでした。ファンサを貰ったようなそんな気分

自分で自分をつっこむ熊太郎の思弁も好き。

 

という感じで、熊太郎は大犯罪者という肩書があるにも関わらず、おもしろくて純粋で、アホで、一生懸命で、応援したくなるような人物に思いました。

想像や考えが他人より飛躍し過ぎていて、それを言葉にできなかったり、周りが受け入れなかったり。そういう意味で、熊太郎はずっと孤独だったんだろうなと切なくなりました。

 

熊太郎を大犯罪者にしたのは、周りの人たちではないか。あかんではないか。

自身の感情のコントロールができなかったからではない。

周りが、被害者であるあの一族が、熊太郎をそうさせたのではないか。

終盤は、逃亡する熊太郎たちを見守りながら、そう思えてなりませんでした。

そして、最後の最後まで、熊太郎は熊太郎でした。

「すんませんでした。全部嘘でした」

本文P838より

と涙を流しながら呟いた場面で、こちらも泣きたくなりました。

全部嘘なんて、そんなことないではないか。

本当のことも言っていたではないか。

それなのに、そんなこと言わんとって……!(方言もれなくうつっています)

読書でこんなに気持ちが溢れたのは久しぶりな気がします。

最後の「あかんかった」の一言にも自分自身に絶望して諦めたような、自分の人生に疲れたような、そんな響きに聞こえて、切なさが極まりました。

その後の締め方も、熊太郎の未練なのか、自分のしたことを傍観しているような描写に、切ない余韻が残りました。

 

最後に

とてつもなく分厚い小説で、読了できる自信が薄かったのですが、お話が魅力的に描かれていてサラサラ読めました。それと同時に達成感

大犯罪者の熊太郎を怖い人と思っていたのに、愛おしく感じる。読んでよかった。知って良かった。そう思える作品でした◎