今回は塩田武士さんの『存在のすべてを』を紹介します。
2024年本屋大賞第3位
キノベス!2024、このミステリーがすごい!などにランクイン
といった、貫禄がすごい一冊で、私も本屋大賞ノミネート時に知って、ずっと読みたかった作品です。
じつは塩田作品、一度挫折したことがあるので、不安少しと楽しみとで複雑な気持ちを持ち合わせております笑
目次
あらすじ
1991年に2児同時誘拐という異様な事件が発生。
犯人は確保できず、ひとりは保護され、事件は時効を迎えた。
もうひとりは3年後に、唐突に現れた。
そんな彼は、礼儀や身なりは誘拐前よりもきちんとしていて、絵が相当に上手くなっていた。
調べていくうちに、ひとりの画家が彼と結びついてくる。
空白の3年間、彼は誰とどのように過ごしていたのか。
被害者である彼が真相を語らないのはなぜなのか。
感想
やっぱり大作というのは、読後に語彙力を失う。
すごかった。最高によかった。
この言葉しか出てこないのです。
まあでも、時間をかけて言葉を見つけていきます。
ある異質な事件が発生するお話なのですが、このお話の一番の部分って、そこじゃないのですよ。
もちろん、二児同時誘拐ってインパクトある事件だし、犯人の意図に思わず賢いなと思ってしまうのですが、序章に過ぎないのです。
最大のミステリアスで魅力的な部分は、被害者児童が帰されるまでの空白の3年なのです。
塩田さんもそこにスポットライトを当てたかったのか、真犯人の詳細や動機を明確にしていません。
誘拐された先で、今までの環境よりも良い環境で、愛情も受けた形跡もあって、躾や勉強も受けていることが、帰ってきた子の容姿や言動、持ち物から見て取れる。
子も犯人について、空白の3年について口を閉ざしている。
そうなるとますます、空白の3年が気になります。
前半は刑事たちの調べ、それを元に調べ直す記者の動きなどによって、事件関係者らしき人を見つけていく。
そのうちに被害者児童と、ある男に偶然にしては重なり過ぎている接点を見つけて、さらに調べていく。
そこに被害者児童(面倒なので次からは亮で)と同級生である女性の、学生時代の2人の出来事が挟まれていくのですが、このパートには甘酸っぱくてトキメキをいただく。
そして少しずつ核心に迫ってきたところで
問題の第九章-空白-!!
問題って言っても、良い意味で、です。
ここには、ずっとみんなが気になっていた空白の3年が描かれているのですが、もうね、私はこの章が一番心掴まれました。
最高でした。
後半はずっと、涙ボロボロさせていました。
胸が苦しくて、すっごくつらかったです。
当事者3人が、そのままでいたいと願っても、そうはいかない悪戯な現実が悔しい。
たった3年が、彼らを本当の家族にし、皮肉にも成長が壁となって、一緒にいるタイムリミットが、限界が来てしまった。
これ以上一緒にいてしまっては、今度こそ、周りから疑われる。
2人が亮に告げる場面はもう、私の中に3人の感情が全部なだれ込んできて、苦しかったです。
そして亮の短冊の言葉がとても切ない。
子どもらしい、たどたどしい言葉で、切実な願いが書かれていて、それが叶わないことを誰もが知っているから、もう、ああ!!泣(取り乱して失礼しました)
これからの段取りを語る貴彦の、最後の言葉。
本当はここにいる3人とも、そんなこと願ってなんかいない。でも言わなければならない。
きっと心を鬼にして、一生懸命発した言葉なんだろうと想像がついて、私も一緒に号泣しました。
こういう経緯を知ってから、亮が木島宅へ着いたときに言った「この家で育ててください」を思い返すと、言葉の重みがズシリときます。
兄に巻き込まれて怯えながらの生活でしたが、この3年間、2人といた亮は一番幸せそうで、2人もだんだん親の気持ちになっていて、尊い章でした。
でも兄はやっぱり許せんがな。最低だがな。
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最後の章も圧巻で、驚愕と感動。
あの人の行方はわからないものの、亮は絵を通して心で交わい、ある人とは再会できた。
完璧ではないけれど、その再会にうごく嬉しくてニヤニヤしてしまいました。
読み終えて、改めて噛みしめるタイトルの『存在のすべてを』という言葉の意味。
表現者としての、父と子の約束の言葉のように感じてグッときました。
ハッとさせられた言葉があったので、ここにメモさせていただきます。
「人間っていうのは、立ち止まったり引き返したりするのが苦手な生き物ですよ。そうすることでこれまでの自分を全て否定されるような気持ちになってしまう」
本文P344より
わかるな〜と思いつつ、なんでそれが苦手なのかは考えたことがなかったので、理由に図星でした。
今までのことが間違っていたと認めたくないのかもしれないですね。
最後に
家族愛に号泣させられました。
事件は表面だけを見てはいけない。じつは裏に事情や感動が潜んでいるかもしれない。
改めて事件の見方を考えさせられる、何が正しいのかを考えさせられるお話でした◎