今回は綾崎隼さんの『君を描けば嘘になる』を紹介します。
まずこの表紙デザインが目を惹く美しさ。さすが青依青さん!
そしてタイトルが詩的でかっこいい。
という理由で迷わず手に取りました。
ちなみに綾崎さん作品、他にも気になっているものがたくさんあるのです。
どれもタイトルが素敵だから気になっちゃう。綾崎さん言葉の魔術師かよって思います。
目次
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あらすじ
対照的だが圧倒的才能を持つ美大生の2人。そんな天才画家2人に絶望的な事態が起きてしまった。
天才で謎めいた2人を知る人たちの視点から語られる、2人の才能と人間性、関係性、エピソード。
画家として絶望的な事態に陥った彼女たちの絶望から這い上がろうと奮闘する愛の物語。
感想
視点ごとにタイトルがつけられているのですが、そのタイトルもまたかっこいい。
作中の文章も詩的な部分がごろごろ出てくる。芸術的文章。
文章センスが眩しいです。それだけで酔えます。
主題がアートなので、この物語を紡ぐ上で、専門的な知識が必要不可欠だと思うのですが、綾崎さん昔、美術関係の学校とか仕事してたのかな? と思っちゃうくらいに詳しく丁寧に描かれていたので、そこもすごい。
多分、美術関係の経歴は見つからなかったので、すごくちゃんと勉強したんだろうな。
設定もちゃんと計算されていて、一気読みしたくなるくらい退屈しませんでした。
ミステリーではないのですが、謎や伏線を随所に散りばめてあるのも、楽しく読めたポイントです。謎、先が気になってどんどん読めちゃうのです。
第一部 関根実嘉の貴くも残酷な終生
視点は天才画家2人の恩師です。
才能はあるけれど、孤独な人生を送っていた先生。
才能はあっても、自分より上のレベルの存在を知り、画家にはなれなかったという残酷でリアルな現実。
アトリエの生徒に天才を見つけ、我が子のように大事に育てるものの、予期せぬ事態が邪魔をする。
タイトル通り才能や教え子に恵まれた花々しい人生でもあり、最後には不運の現実に邪魔をされる人生。
最終的には孤独ではなく、教え子に慕われ、報われた感じがすごくグッときました。
第二部 南条梢の曖昧で凡庸な恋物語
視点は天才画家の妹です。
兄弟って比べられやすいし、親の愛情がどっちかに偏る事もよくある。
親自身が平等にしようと心がけていても、それでもちょっとは偏ったり比べてしまうのだと思います。(この母親は露骨に偏り過ぎだけれど)
ましてや兄が天才で、容姿端麗、人当たりも良いという完璧人間なら尚更ですよ。
それなのに、ひねくれなかった妹はすごい。(あ、でもちょっとグレかけていたかも)
ここでちょっと、兄である天才画家の人間性が謎めいていて、冷酷にも見えて、こわい印象を受けました。何を考えているのか。でも優しい。混乱する……。
第三部 高垣恵介の不合理で不名誉な冒険
視点は元アトリエ仲間です。
正直最初は、誰? ってなりました。
遡るとちゃんと一部と二部に登場しています。ちらっと。
この子の気持ちはとても理解できる。周りが才能すご過ぎて、自分と比べたらそれはもう惨敗ですよ。
自尊心ズタボロですよ。
誰だってそうなるよ、あんな天才しかいないようなところで一緒に過ごしていたら。
その上アトリエ外では、いじめ。
ひねくれるよ! あの状況で悠々と生きていたら、それはそれで心配だわ!
同情をしてしまう。人間味の強い。それが高垣恵介という男です。
ここにきて南条天才画家、更に冷酷さ、こわさが際立ちました。でもこれは高垣くん目線で見た彼だからね。やはり謎めいているね。実際はどうなのか、それを知りたくて、休憩挟まず第四部突入です。ででん。
第四部 ある恋のない愛の物語
視点はW主演のひとり、天才画家の灯子ちゃんです。
絵を描くこと以外には無頓着な彼女は全体的に幼い。なのでこの部での語りは柔らかくて易しいです。
ここでは主に絶望的事故のその後が語られています。
胸が苦しかったです。画家でない私ですら絶望するような現実。
この後に及んで南条天才画家は、また冷酷に見える。
でも違ったのです! ちゃんと彼にはワケがあったのです! (急に熱くなる)
そういうことか。灯子ちゃんが自力で絶望から這い上がれるようにあえて厳しい言動を……( ;∀;)
愛だ。これは恋ではない。恋をすっ飛ばして、愛だ。
「お前を描いたら嘘になる」
「良いよ。嘘でも。だって遥都が描いた絵なら、私にとっては嘘じゃないもん」
「お前は俺を信用し過ぎだよ。いつか痛い目を見るぞ」
本文P309より
彼女は彼を無条件に信用するくらい愛している。それがわかるキュンキュンな会話でニヤニヤが止まりません……!
言葉足らずな彼はどういう意味で「嘘になる」と言ったのか。
正直今でもわかりませんが、きっと今までの自分が取ってきた言動が嘘になるっていう意味かなと考察しております。
今までの彼の謎めいた言動や態度は、彼女への気持ちを悟られないためのカモフラージュだったとしたら、彼女をこの手で鮮明に描いてしまうことで、出会ったころからずっと灯子を見ていた(関心があった)という証明になってしまうから。
そうだったらロマンがあるな~と思っています。
※あくまで私の考えであり、実際はわかりません。
最後の先生からのプレゼントには、さすがにそんな展開は読めなくてびっくり仰天。
確固たる確信がないとできない贈り物だから、先生もよく2人の関係性を見抜いたなと感心しております。
最後に
同じ芸術家でも、立場や視点が変わる事によってそれぞれの苦しい感情が描かれていて、頷きながらスラスラと読むことができました。
綾崎さんの他作品も絶対に読みたいと思います◎