今回は近藤史恵さんの『歌舞伎座の怪紳士』を紹介します。
表紙が煌びやかでかわいらしいです。タイトルも「オペラ座の怪人」を文字ったおもしろセンス。
怪しい紳士が出てくるっぽいです……。気になります!
目次
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あらすじ
祖母から「お芝居を私の代わりに観に行ってほしい」という依頼をされた彼女は、祖母から送られてくるチケットを手にお芝居を見に行き、感想などを祖母に提出することになった。
お芝居を見に行く先では毎回、偶然とは思えぬ程、ある紳士に会う。そして劇場で起きる奇妙な出来事にも度々遭遇する。
感想
総合的に、一言で表すならば、楽しくてあっという間でした!
劇場で起こる事件は、どれも日常ミステリーみたいな事件なので怖くないです。怖がりさん、ご安心を。
その日に観劇したお芝居の内容に若干リンクしたような事件や過去の回想。そのしかけがおもしろいです。
事件は、毎回出没する紳士が解決の架け橋を架けてくれる助手的立ち位置で、それを受けて主人公が閃くという形で、その場だけの関係とは思えない連携プレイがテンポよくて、わかりやすく、おもしろいです。
そして読者にも謎解きの余白を与えてくれるのも嬉しいです。すぐに解決せずに、わかりやすい易しい手がかりや、疑問点を並べてくれる。(たまに自分の推理外れるけれどね)
このシンキングタイムのおかげで「もしかして、こういうこと?」「わかった! こういうことでしょ!」と、ひとりではしゃげます。楽しい。
このお話の楽しい点がもうひとつ。
お芝居を見に行きたくなる。特に歌舞伎。
オペラなどもお話に出てきているので、それも行きたくなりますが、タイトル通り歌舞伎がほとんどなので、歌舞伎の知識が豊富です。
その知識や魅力を吸収していくことで、実際に観に行きたくなるのです。
歌舞伎って敷居が高いし、堅苦しくて難しそう。何を言っているのかわからないセリフもある。
そう思って、今まで一度も興味を持たなかったのですが、このお話を読むと、あら不思議。
歌舞伎、おもしろいじゃん。少なくとも、このお話に出てくる演目はめちゃくちゃおもしろいじゃん。ものによってはファンタジー要素あるし、どんでん返しもあるじゃん!
歌舞伎のおもしろさを知れて、ちょっと嬉しいです。気持ちがホカホカです。
演目のあらすじをわかりやすく解説してくれているので、それだけでおもしろいです。
個人的には「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」という演目に登場する女装チンピラの弁天小僧菊之助が好きです。キャラ立ちが最高。
同著者の『ホテル・ピーベリー』をこの前読んでいて、このお話に関しても思ったのですが、心に傷を負った人物を描くのが上手だなと感じました。絶妙にリアルな心理描写なのです。同じように心に傷を負った経験のある人はもちろん共感できるし、負ったことがなくても理解できる描写。
「誰かがあなたを責めようと発することばは、自分がいちばん言われたくないことばですよ」
「だから、あなたが傷つく必要はない。傷ついているのは、そのお友達です」
本文P195より
この考えはすごくいいなと思います。この言葉を盾にすれば、自分の感情を少しは穏やかにコントロールできるし、心を守れる。今後もし、誰かに責められるようなことがあったら思い出したいです。お守りの言葉です。
そして2言目の破壊力。なんて力強く優しい言葉なんだ……。自分にも相手にも響く優しい言葉です。これで世界は平和に保たれる。
吞み込む方がきっと楽なのだ。楽しいふりをして、傷ついていないふりをして。だが、そうやって、抑えつけた自分の感情は、いつか小さな猛獣になる。
わたしの猛獣は、わたし自身を食い荒らした。
本文P213より
本当にこれ。その通り。「猛獣」という喩えもしっくりくる。
その場は切り抜けられても、それを続けると、そのうち自分が壊れちゃうのです。
肝に銘じたい。
お芝居を観に行く度に会う、偶然にしてはおかしい、怪しい紳士の正体が、思わぬ展開を巻き起こします。
そ、そんなロマンティックな展開になるなんて、誰が予想できようか……!
こんな気持ちにさせられるなんて思いもしなかったので、不意打ち攻撃に撃沈でした。(程度には個人差があります)
最後に
歌舞伎が好きな人も、そうでない人も是非読んでほしい文化的作品です。
そしてそれだけじゃない。思わぬ着地点に、読後の余韻がホカホカする素敵な作品でした◎