今回は、森博嗣さんの『喜嶋先生の静かな世界』を紹介します。
森博嗣さんの本、お初です。有名な方なので、いつか読みたいと思っておりました。
ちなみに森博嗣さんの代表作はミステリー系が多いらしいですが、今回の作品はジャンルが違います。
最近、書店でもよく見かけるし、写真にはないですが、帯に
「気持ちが疲れているとき、人生に迷っているとき、心を整えてくれる小説。これまでも、これからも、何度も読み返す本です」
と書いてあったので、疲れてるし迷っている私は(私情は本に関係ないので割愛)すぐ手に取りましたね。
目次
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あらすじ
主人公の大学4年から大学院までの研究、そして喜嶋先生との日々を描いた自伝的小説(半生を描いた小説)です。
難易度
大学という環境、組織の中で理系の世界を生きる登場人物たち。それと真逆な、高卒ど文系な私には知らない事、難しい事が多くて。最初はついていけないかも……と困惑していました。
大学、大学院ってこんな複雑なしくみなの?
これは何を説明しているの? 呪文か何かか、これは……
序盤はもう本当にこんな感じで、頭の処理機能がフリーズ寸前でした。(大袈裟に言っているので怖がらないでください)
でも不思議なもので、人って慣れるんですよね。だんだん普通に読めるようになりました。慣れたのか、森博嗣さんの文才力なのか、はたまた両方か。
たまに理系的実験用語(?)でつまづくけれど、理解できなきゃ読めない話ではないので、わからないまま。全部は無理。妥協も大事です。(さとり)
感想
理系苦手なんですけれど、意外とこれ、ちょっとおもしろいかもって思えちゃいました。この私が。きっと彼らの熱意がすごくて、苦手が少し消えたんでしょうね。
そう、彼ら研究者の熱々な情熱が文章から伝わってくるんです。
意味はわからなくても研究、夢中になっていて楽しそう! って。
まあ実際そんな軽いノリで研究したら、成果出せないまま途中で放棄しそうですけれど、私の場合。(熱しやすく冷めやすい)
でも、読み手の苦手意識を少しでも「楽しそう!」と思わせられるこの熱意、脱帽ものです。理系への見る目変わりました。
魅力の一つとして、主人公くんがいいキャラしているんですよ。
他人の気持ちがわからないし、それをわざわざ自分が理解する必要もないか、と考えるタイプ。実際、知り合いにもいますが。
私はその真逆を行くタイプなので、主人公みたいな人に対して、この人一体どういうつもり?! とイラっとしちゃう時がたまにあったんですよ。でも主人公を通して、そういうタイプの人の心理、考えを理解できて、悪気は本当にない事と、たしかに効率的に考えたらそうした方がいいもんな、と少し理解と納得をしました。
これからは、そういう人と接するときは、冷たいなと思わず(一瞬思うだろうし、出来ないかもしれないが)受け止められそうです。大人になります、私。
そして、この本で一番伝えたい部分。
とても深い内容でした。名言とか感動する表現とか多過ぎて、付箋貼ってたらすごい事になりました。もうこれは名言集。
人生に疲れたら読み返して心を浄化したいです。
これはこう捉えればいいのか。
たしかになんで私はこう決めつけていたんだろう。おお、そのやり方もアリだな。
なるほど、だから心が疲れちゃうわけね。
てな感じで、世界が広がるし不思議と心がほぐれます。読む心の整体。
疲れると視野とか考えを狭めちゃっているのよね。わかってかいてもねえ……。
こんな感じで特に何事もなく
タイトル通り静かな世界が続くのかと思いきや!
終盤に差し掛かったところで何それまじかよ! な衝撃展開が……!(※衝撃の受け方には個人差があります)
この展開、賛否両論あるらしいですが、私は大好きな展開でした。
もともと、たまにふふっと笑える展開はちらほらあったのですが、もうここでは上品にふふふって笑いができなかったです。がはは! って感じです。あはは! だったかも。(どっちでもいい)
やるな、喜嶋先生。今までと違う意味ですごいよ、かっこいいよ先生。
静かな世界=ひたすら没頭して、誰にも邪魔されない、自分だけの世界
喜嶋先生の静かな世界とは、喜嶋先生の研究人生、または喜嶋先生の研究室というように、私は捉えました。
あ、そうそう、中村さんのキャラ個人的に好きだったのに、序盤で出番が終わっちゃった事だけ悔やまれます……。
名言集
※ここから先は本文の一部を抜粋するので、多少のネタバレがあるかもしれません。その点を気をつけて、前へお進みください。そして長いので覚悟して進んでください。
どんなものでも、手に入れるためには、多少の犠牲を伴う。回り道が必要なことが多い。
本文P48より
まったくその通りですよね。でも、忘れがちな点であります。肝に銘じます。
社会というのは、人間関係が生い茂ったジャングルのようなところで、なにものにも触れずに生きていくことはできない。
本文P119より
この例え秀逸です! そう、誰とも関わらずには生きていけないから苦労もあるんですよね、社会は。
「今までの経験を活かして」の挨拶に対して「そんな経験のためにここにいたのか」
良い経験になった、という意味で、人はなんでも肯定してしまうけれど、人間って経験するために生きているのだろうか。今、僕がやっていることは、ただ経験すれば良いだけのものなんだろうか。
本文P168より
これにはドキッとしました。今までの経験を活かしてって言葉、万能でいい言葉と思っていましたが、そう言われると、今までの経験は何の為で、何の意味があったのだろう。ちょっとホラーな言葉に感じます。(世にも奇妙な物語的な)
年齢が増すほど、解けない例を知ってしまうから、もしかして、これは無理なのではないか、と凝り深くなり、それに比例して、少しずつ研究の最前線から退くことになる。
本文P217より
なんだかわかる気がします。研究者だけではなく、何においても、若いほど失敗を知らないから付き進められるけれど、知識や経験を積むと、失敗の可能性を考えて、ある意味臆病になって動けなくなりますよねえ……。
科学というのは、もの凄く謙虚なものだ、と僕は思う。(少し省略)独裁者のような人、カリスマのような人物が現れて、これが正しいと言うだけで大勢が従うようなことは、少なくとも科学にはない。
本文P224より
ほほー。たしかに。科学者はみな平等だわ。
多くの人は、単刀直入の姿勢を攻撃的なものと捉えて、(少し省略)礼儀に沿った言葉でないと、ただちに非難されたと思って身構える、そして言葉の内容を吟味し、理解することを放棄してしまうのだ。
本文P231より
日本人って特にそうですよね。オブラートに包んで話さないと、言葉を選ばないと、内容がどうであれ、自分が非難されたと思っちゃう。
「覇道と言うべきかな。僕は、王道という言葉が好きだから、悪い意味には絶対に使わない。いいか、覚えておくといい。学問には王道しかない」
本文P234より
かっこいい。覇道と王道って逆の意味だけれど、先生の言う「王道」は、覇道にも似た「勇者が歩く道」。まさに名言です……!
彼女みたいに働いていたら、毎日はこんなにのんびりしていられないはず。人間関係に揉まれて、余計なことを考えなくてはいけなくなる。自分の領域だけに籠っていることはできなくなるのだ。
本文P308より
これはまさに、この作品のタイトルですね。自分の領域だけに籠っている=静かな世界。
「好奇心っていうのは、誰にでもあるものだよ。ただ、好奇心を活かせるかどうかっていうことが大事だと僕は考えている。自分の好奇心を、人間とか社会の役に立つことに使いたいだけだよ。せっかく生きているんだからね」
本文P312より
かっこいい、橋場君!さすがは研究者。
本当はあと数か所、心に刺さる言葉があったのですが、長くなり過ぎるとたいへんなので、これにてお開き!
最後に
今までの固定概念がひっくり返るような、もっと相手の言葉の意味をしっかり考えて正しく、間違えないように受け取りたいという気持ちが芽生えた作品でした。
哲学的で難しくはありましたが、何度も読み返して、その度に感じる事が変わっていくだろうなと思います◎