今回は坂口安吾さんの『不連続殺人事件』を紹介します。
第二回探偵作家クラブ賞受賞作です。
坂口安吾さんの別作品を読みたくて探していたのですが、勝手に純文学を書くイメージがあり、ミステリーを書いているという意外性から(坂口安吾作品を読んだことがない)こちらをまず読むことにいたしました!
調べたら、坂口安吾さんは幅広いジャンルを書かれているそうです。
連続殺人ではなく、不連続殺人。どんなお話なのか。
そして文豪の描くミステリーはどんな感じなのでしょうか!
※今回は登場人物紹介にかなり尺が取られていて、なが~い記事です。そのため、お急ぎの方は流し読み、または知りたいところだけ読むことを推奨します。
目次
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あらすじ
ある詩人の大豪邸に招かれた個性の強いさまざまな友人知人の男女たち。
どんちゃん騒ぎの中、殺人事件が発生した。それを皮切りに次々と殺人事件が勃発する。
誰が犯人で、動機やトリックはなんなのか。
登場人物紹介
この作品には登場人物がたくさん出てきます。そして交友関係も入り組んでいます。更に皆さんクセが強いです。
読んでいて迷子になってしまったので、同じようになった人や再読する時のために簡単にまとめさせていただきます。
驚きの総勢35名!! (書き漏れがあるかも)
□矢代寸兵
主人公。作家。
□京子
矢代の妻。歌川多門の妾だった。
□歌川一馬
矢代の友人。文学者・詩人。
□あやかさん
歌川一馬の妻。その前に土居と同棲していた。美人で気高く、お金好き。
□歌川多門
歌川一馬の父。政治家。わがままで女好き。
□珠緒
歌川一馬の妹。自由奔放で、人をからかうことが好き。望月が好き。
□梶子夫人 通称「お梶さん」
歌川多門の2番目の妻。ゼンソクで病死したが、他殺説が浮上。
□加代子さん
多門の隠し子。病人。兄である一馬が好き。
□望月王仁
人気作家。傲慢無礼で女好き。宇津木秋子と珠緒と関係を持っている。
□丹後弓彦
作家。紳士みたいだが傲慢でヒネクレ、自惚れ者。
□内海明 通称「セムシ詩人」
詩人。気持ちスッキリしたところがあるが、セムシ(背が曲がっている)で醜怪。
□宇津木秋子
女流作家。三宅木兵衛の妻。歌川一馬の元妻。望月が好き。
□三宅木兵衛
フランス文学者。宇津木秋子の旦那。望月に内心は嫉妬している。
□明石胡蝶
女優。色っぽい。人見小六の妻。歌川一馬が好き。
□人見小六
胡蝶の旦那。親切で人懐っこいが臆病。しれっとしているが実は嫉妬深い。
□土居光一 通称「ピカ一」
画家。自信家。あやかさんの元同棲相手。
□巨勢博士
探偵。くだらないことはなんでも知っている。
□神山東洋
弁護士。前は多門の秘書だった。
□木曾乃
神山の妻。元芸者で、多門の妾だった。
□海老塚医師
医者。足が悪い。人付き合いも悪い。
□諸井琴路
看護婦。冷たい。
□南雲一松
中風の患者さん。多門の妹の旦那。
□お由良婆さま
南雲一松の妻。多門の妹。
□千草さん
南雲夫妻の末娘。珠緒と犬猿の仲。不美人で超えていて性格悪い。
□南川友一郎
駐在の巡査。
□平野雄高 通称「カングリ警部」
一目で勘ぐる探偵の親分的存在。
□荒広介 通称「八丁鼻」
県内きっての探偵。どんな手口も嗅ぎ分ける。
□長畑千冬 通称「読ミスギ」
小柄。知識豊富だが、考えすぎて難しく解釈しがち。
□飯塚文子 通称「アタピン」
婦人警察探偵。なんでも頭にピンとくる。小生意気な美人。
□八重
歌川家の女中。
□下枝
歌川家の小間使い。若くてかわいい。
□片倉清次郎
長年番頭を務める老人。病人。
□坪田平吉
元歌川家の料理人。
□テルヨ
坪田の妻。元歌川家の女中。
□奥田利根五郎
論語研究家。
感想
読んでいて全然犯人も動機もトリックも全部わからなかったです。
そもそも人間関係の方に気を取られたし!(言い訳)
登場人物を知った人はお分かりいただけるでしょうが、とにかく登場人物が多いし、男女関係がドロドロだし、個性が強い。
最初の数ページで一気に登場人物が並んできたのでパニックでした。
一旦、紙に書き出して整理してから読書再開。その後も追加で続々と個性豊かな人物が登場して忙しかったです。
妾とか元妻が内輪で多いから尚更。びっくりしちゃう。
現代ではありえないから、相関図だけでおもしろい。(こういう奇想天外な感じ好き)
時代背景もあるのかもしれないね。この入り組んでいてワケアリな人物たち。
連続殺人事件はよく聞くけれど、不連続殺人事件って一体どんな事件なのか。
「時間的には連続していても、動機も犯人も別な事件が入りまじっていて、結局は不連続殺人事件じゃないのか」
本文P192より
なるほど。別々の事件がたまたま同時進行してしまって、ひとつの連続殺人事件に見えるということか。この発想は思いつきませんでした。
このセリフが出てくるまで単独犯で同じ計画のものだと思い込んでいました。(タイトルで「不連続」って言っているのに忘れてた)
全てが明らかになった最後のシーンは最高でした。かっこいいというか、切ないというか。とにかくこのオチはちょっと感動しました!
こんなにめちゃくちゃで、ワケが分からないくらい複雑だったお話が、最後の最後はサッパリしていて落差にやられました。
そうそう! 作中で隠れミッキーみたいに、ご本人隠れ坂口安吾が一瞬だけ登場するので、そこもおもしろいです。
※ここから先はネタバレ要素を含みますのでご注意を!
動機やトリックを知らないと普通の連続殺人に見える。
でも全てがわかると、それは不連続。被害者の中にはカモフラージュや工作利用のためだけに殺められた人がいるから。
つまり
動機や犯人特定されること防止のために、関係ない人を生贄的な感じで不定期に、間に巻き込んで、本当の標的をカモフラージュする戦法。これを題して不連続殺人。
上手いこと言うなあ。
結局、この作戦を決行するにあたって、内部に入り込むために結婚詐欺みたいなことをしたってこと? おそろしいね。
全てが明らかになったようでいて、モヤモヤもあります。
帯にお梶さまは誰に殺されたか。とあります。一馬に送られてきた手紙(本文P16)にも書かれているこのミステリアスで、事の発端っぽい一文。
読み終わって一息ついて、本を閉じたとき。
あれ、そういえば結局、お梶さまは……?
となりました。
病死のお梶さまの他殺説が序盤に出てきているのに、これに関しては、はっきり何もなく。
私の考察としてはまあ、結局、事実変わらず病死かな。
もともと毒殺されたという噂があったから、彼の気を引くために差出人がその噂に乗っかって、利用したのだろうなと思います。知らんけど。
最後に
事件のしくみも計算されていておもしろかったですが、私の読書本史上最多の登場人物たちにも翻弄され、2度楽しめました◎