今回は小野寺史宜さんの『ひと』を紹介します。
2019年本屋大賞第2位の作品です。
書店でよく見かけていて、話題にもなっていたのですが、あまり惹かれなくて手に取るまでには至らず。
しかし、SNSで繋がっている方に紹介してもらったことを機に再認識、さらに本屋大賞第2位だったと知り、追い打ちで帯の矢部さんの言葉。じわじわと気になり、これはもう読めということだと勝手に運命を感じて現在に至ります。
この本の素晴らしさ、この目で確かめてまいりました!
目次
< スポンサーリンク >
あらすじ
若くして家族を立て続けに失い、お金もなく、頼る人もない絶体絶命の孤独に陥った主人公。偶然が重なり、コロッケが縁を繋いでくれた。
大学も辞めざるを得なくなり途方にくれた主人公の1年間の人生奮闘記。
感想
たしかにこれはコロッケが食べたくなる。(買いに行きました)
主人公の生活にはコロッケが欠かせないので、終始コロッケが登場する。揚げたてコロッケの描写、コロッケの美味しさも語ったり。コロッケの良さを再認識させられます。
出だしから人生どん底で、読んでいるこちらが心配と不安にさいなまれる。しかし、全てを失ったからこそかもしれませんが、主人公の冷静に物事を受け入れていく姿勢、時に向き合おうとする強さ、他人に対する優しさが感じられて、不安は吹っ飛び、応援したくなります。20歳とは思えないくらいに大人。好き。
こんな主人公だからこそ、赤の他人たちは助けたくなるんだろうな。
同じ状況下の人がいたとして、仮にその人が悲劇のヒロインを全面に出したり、それを理由に我儘やりたい放題だったら、他人は尚更助けようと思わないだろうな。
孤独を受け止めて、自分でどうにかしようと頑張る。
孤独を知ったからこそ、人との縁、繋がりを大事にできる。人を思いやれる。強くなれる。
孤独はしんどいけれど、強くなれるし、人との関わりの大切さを知ることができる。
私は臆病だから、なるべく孤独になりたくないけれど、悪いことばかりじゃないんだなと感じました。時には孤独も必要かもしれない。人の存在をないがしろにしないためにも。
受け入れて、強くて、優しい主人公だからこそ、赤の他人であるはずの周囲でも彼を助けてあげたくなる。と言いましたが、それだけじゃない。
その赤の他人たちも、温かくて優しいから成り立つのです。温かくて優しいから、頑張って生きようとしている主人公を支えたくなる、好きになる。
みんながみんなそうじゃないんです。
だって、唯一の親戚おじさんなんて今まで何もしていなくて、ただ母の葬儀や遺品整理を手伝っただけで、それを理由に金銭面で付きまとってくる。最初は母の借金を返してほしいとか言って正当そうな理由を作って。(嘘か本当かはわからないけれど、私の見立てでは嘘)
それが終われば、職場まで乗り込んできて恩を売ったからお金をくれだの……。
いい歳してまじで最低だな! 森へ帰れ! (おじさんの住処は森じゃないよ)
勢いです。勢いでつい、森へ帰れと……。
まあ、それくらい親戚おじさんに腹が立ちました。
あと、悪気はなさそうな高瀬くんにもちょいちょいイライラでした。
その他の人たちはみんな温かくて優しいです。
いい加減で突拍子もないことする人もいますが、憎めない。いい人。
逆におもしろいアクセントになってくれています。
特に友人。2人の会話は深いことを話しているわけでもなく、他愛のない会話。
だけど友人が冗談言ったり、おもしろい反応をするので、和む。
2人の会話が、特に好きです。大したこと言ってないのに、なんかいい。いい友人だなと思う。
最後の展開はキュンキュンしちゃいました。今までは人との縁とか、助け合いとか、そういう温かい人間模様だったのに。全然そんな空気なんてなかったのに、最後の最後で温かいどころか熱い!
主人公、めっちゃかっこいいじゃん。惚れる。
大切なのはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。人材に代わりはいても、人に代わりはいない。
本文P323より
形のないものが大事とか聞いたりもするけれど、それな!
この人じゃないとダメってある。家族も友人も、恋人、パートナーも。この人じゃなきゃダメって思う。
今までいろいろなことを受け入れたり、譲ったりしてきた主人公が、ここにきて唯一譲れないもの。かっこいい。泣きそう。嬉
そんな彼の、他人に譲れないと思った大切な人。
前置きはなし。まずは要点を言う。
本文P323より
この戦法、こういう場面に使われたら、威力すごいね。
結局、同じ内容でも、回りくどく伝えられるより、ストレートに伝えられた方がドキッとするしグッとくる。
どうか彼がこの先、幸せでありますように。
この場所で繋がった縁(人)があればきっと、彼はこの先どんな壁も越えていけそうです。この数年の、これ以上の大きな壁はそうそうないと思う。
最後に
テンポよくて読みやすかったし、人間関係(縁)につて考えさせられ、本当に大切なものを教えてくれた気がします。読んでよかった感動作です!