今回は深木章子さんの『ミネルヴァの報復』を紹介します。
第69回推理作家協会賞候補作です。
前作同様、表紙が素敵でタイトルもそそられます……!
目次
あらすじ
20年ぶりの大学時代の先輩が弁護士の主人公のもとへ離婚調停の依頼を頼みに訪れた。
それを発端に彼の愛人の失踪、さらに弁護士会館と裁判所で連続殺人が発生。さらに主人公が襲われかけて、完全に巻き込まれる。
なぜ、誰が、どのようにして……。
この謎を友人である弁護士の睦木怜に相談する。
果たしてこれらの謎はどのようにして繋がっていくのか。
『敗者の告白』の弁護士・睦木怜シリーズ。
※シリーズと言っても、このお話から読んでも問題なく理解できます!
感想
緻密に組み立てられていて、入り組んでいて、難易度が高いお話でした。
読み終えた後、相関図を書いてみたくなる。
そして完成した相関図を眺めて
すごいことになってんじゃん……。
となりました。
男と女の間にある感情は変化が激しい。
くっついたり離れたり、愛し合っても憎しみに変わったり。
どれも一時の感情で、そこに保障なんてない。
大体の場合は理性が働いていたり、罪を犯す前に我に返ってブレーキを踏んだりして、ただの喧嘩別れになるのですが、衝動的に動く人や分別のない人は相手を恨んだり疎ましく感じたら体が反射的に動いてしまう。
犯人はまさにそういうタイプで、でも頭が良いからどこか効率的でもあって。
男女間のもつれは時に怖ろしいです。
そしてこれは元弁護士である深木さんだからこそ描けるお話でした。
弁護士界の細かな規定や事情を駆使して作り上げられているので、難しくはありますが勉強になります。
陳述書とかの裁判書類の文面も普段目にするものではないので、難しいこと書いてるな~と思うのですが、本当にその場に自分がいるような臨場感が増します。
これもまた社会勉強になる要素です。
ミステリーを読み漁っていることが功を奏したのか、お話の中盤でなんかこの人怪しいんだよな~と気づきました。
でも実際本当にその人が犯人だと発覚した時は鳥肌が立って
いや怪しいとは思っていたけれど、え、まじであなたが犯人だったの!?
という具合に、やや高揚しました。(疑っていたくせに信じられない)
私がその人を怪しいと感じたのは、会話やその時の雰囲気が「隠し事がある人」っぽいなと感じただけという漠然としたもので、根拠もないし、証拠もトリックも動機も検討がつかないという状態でした。
つまり直感みたいなやつで、こいつ何かありそうと思っただけ。
まさか、本当にそうなるとは……という驚き。(長々と言い訳)
今回の事件の渦中にいたトラブルメーカー的存在の辻堂俊哉。
このお方、キャラが強いです。
ずっとずっと女たらしで最低なのよ!
その上、忙しいからアポ取ってから来てねという注意も聞かず毎回アポなしで乗り込み「俺は時間大丈夫だからいつまでもここで待たせてもらうぜ」という自己中ぶり。
自分が引き起こした騒動にも関わらず他人事。
あっちにもこっちにも都合良いことを言うから信用ならない。(そのせいで騒動もこじれる一方だしな)
都合の悪いことは人任せ。
そこに頭脳明晰と来るから悪知恵が働きまくり。
ああ、悪口をこんなにも並べてしまった……!(自己嫌悪)
とにかく彼はいろんな意味で最強です。
※ネタバレ区域※
ここからは事件の整理とタイトルの意味についてを書いていきますので、未読の方はここまでにしていただければと思います!
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<愛人失踪事件>
横手が相手にしていた西舘は変装した妻・康子でした。
西舘本人は既に亡くなっており、夫婦で力を合わせて彼女の遺産をいただくために「離婚調停」「損害賠償請求」という茶番をレールに、がっぽり遺産をいただいた。
そして本人が殺害されていることがバレる前に、本人自ら失踪したように見せかけ、一件落着させようとしたのです。
<第一の殺人事件>
てっきり西舘が被害者かと思って読み進めていましたら、なんと康子の方でした。
横手が康子に会いに行くと言い出し、そうなると愛人失踪事件の全貌がバレると焦った辻堂が計画し、愛人・佐伯が協力した事件です。
<第二の殺人>
なんと一番疑わしい(いや犯人なんだけれど)辻堂が被害者です。
辻堂に利用されているだけだと悟った愛人・佐伯がこの一連の事件にトドメをさしました。
この全貌が明らかになるまで二転三転を繰り返し、どれが真相なのかわからなくなりました……笑
<タイトル『ミネルヴァの報復』の意味を考察>
ミネルヴァとは音楽・詩・医学・知恵・工芸・商業・魔術を司る女神のことです。(めっちゃ司るじゃん)
ちなみにフクロウを従えていて、知恵と戦いの象徴とされています。
ヘーゲルの『法哲学』で、このミネルヴァのフクロウが登場します。
正義の天秤を司る女神テミス=睦木
怒りのままに奮闘する戦いの女神ミネルヴァ=横手
という表現が作中に登場します。
つまりミネルヴァの報復とは横手の仕返しと読み取れます。
「佐伯さんのあの自白は真実ではない。それどころか、自分の罪を被害者になすりつけている。そして、佐伯さんに知恵をつけて嘘をいわせているのはこの私だ」
本文P336より
これはセリフの一部を抜粋した言葉ですが、横手は佐伯に知恵を与えたという事実が見られます。ミネルヴァを連想させる行動ですね。
そして佐伯の罪を少しでも軽くするために与えた自白の捏造という知恵は、彼女を守るためだけでなく、彼女が罪を犯した元凶である辻堂へ罪をなすりつけるという仕返しでもあったというわけです。
ミネルヴァによる、辻堂というクズ男への報復。
弁護士であっても、横手は人間である。
守りたいもののためなら、憎いもののためなら何だってする。
弁護士は、真相を絶対とするとは限らない。
この部分には前作の『敗者の告白』の結末と似たようなものを感じます。
最後に
探偵や警察ミステリーとは違い、自身の都合で決着をつけるという形が少しモヤモヤするものの、人間らしくて、これが現実なのだろうなと考えさせられる濃ゆいミステリーでした◎
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