今回は呉勝浩さんの『爆弾』を紹介します。
このミステリーがすごい! 2023年版国内篇、ミステリが読みたい! 2023年版国内篇で第1位を獲得。
さらに、受賞は逃しましたが第167回直木賞候補作。
さらにさらに2023年第20回本屋大賞ノミネート作。
めちゃくちゃ話題作です。
気になって気になって、ついに読みました!
シンプルだけどインパクトあるタイトル。装丁にも味があります。
目次
あらすじ
ちょっとした傷害事件で連行された正体不明の男。取り調べ中に「爆発がある」と予言し、それは的中した。
その後も爆発は起こると予言し、その時刻場所のヒントを難解なクイズでにおわせる。
そして男は、過去に不祥事を責められ自殺に追い込まれた刑事の名を挙げる。
警察は爆弾を見つけ、防ぐことができるのか。
自殺した刑事と何か関係があるのか。
男は何者なのか。
感想
男と刑事たちのハイレベルな頭脳戦。心理戦。
映像化希望です。
迫力と緊迫感が常にあり、夢中にさせられます。
登場人物のキャラ立ちもみんな魅力的です。
私はその中でも類家さんが好きです。
刑事の中で一番互角に、なんなら少しリードしているんじゃないかってくらいタゴちゃん(正体不明の男)と渡り合っていて、すごく気持ちいい。
特に第二部から類家さんの活躍が本領発揮されて、おもしろさが更に加速。
化け物VS化け物。
凡人脳の私は、二人の攻防にただ見とれて、次々と明かされていく謎や繋がり、新事実に驚く事しかできませんでした。考える隙もない。(考えることを放棄して、驚きを楽しんでいたとも言える)
実際、取調室に同席していた刑事さんたちも二人の攻防に加われず呆然としていたから、やっぱり二人のレベルは尋常ではなかったのでしょう。
タゴちゃんの相手が出来るのは彼しかいないなと惚れ惚れしちゃいました。
正直、何考えているのかわからない感が少し危ういですが。
他の登場人物も、タゴちゃんや爆弾にそれぞれの立ち位置で翻弄され続けて、理性が飛び、醜い部分をえぐり出されていきます。その様子に人間味が強く出ていて、痛いほどリアルな心理描写。
サスペンスミステリー要素だけでもハラハラドキドキで、難解で、すごくおもしろかったのですが、このような極限状態から人間の醜い本性がリアルに描かれていて、痛いところを突かれた感覚になったり、おそろしくなったりしました。
人間の命はみな平等だとか、極限状態になればそんな理性的な考えは崩壊する。
親しい人を優先したいし、赤の他人なんてどうでもよくなる。
言葉を逆手に取れば、みんな平等なら、大人も子どももない。
社会は矛盾しているし、平等を叫んだところで人間の本性は順位をつけてしまう。
どうすることもできないですが、考えさせられます。
※ここから先はネタバレ要素が含まれますのでご注意を!
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爆弾の詳細も、タゴちゃんの正体も、どれだけ彼が語ろうと、ヒントを出そうとピンときませんでした。(ヒントをヒントだと気づかない)
解かれてやっと、そういうことか! と納得。
ひとつも自力で解けませんでした。レベルが高いです。
タゴちゃんの言葉遊びレベル、まじで侮れないです。
そもそもタゴちゃん物知り博士並みです。
あんなに自分を卑下して弱々しく見せておいて、頭がめちゃくちゃ良い。
自分を卑下していたのも戦略の内なのかなと思います。頭良すぎて。
読み終わった今でも、はっきり何者なのか正体が掴めないです。
分かったことと言えば、社会への不満と誰かに自分を欲求してほしい(気を引きたい)から有名人に、爆弾魔になろうとしたということ。
そして実際は、有名人になるために他人の犯行計画を乗っ取ったという事実。
彼のスピンオフが語られる機会があれば、読んでみたいです。
自殺した刑事の繋がりも、思った以上に大きな繋がりでびっくりです。
オマケ的な、ちょっとした繋がりかなと予想していたら、もう主役級の大重要。
爆弾事件の発端は、自殺した刑事や遺族に対する警察や社会の理不尽な扱い。絶望と復讐心。
表立って登場したのが彼らに関係のないタゴちゃんだったから、事件解明は遠回りしてやっと全貌が見えた。
すごくよく組み立てられたミステリー。
結局表面上では、移送されたタゴちゃんも、全貌を知るはずの明日香も、その後証言を変えずに平行線で幕を閉じ、さらに明日香がタゴちゃんに相談した真意もすれ違いなままっぽくて、イヤミス要素もありますね。
そして最後の一行で爆弾を投下されて、ゾクリとしました。
最後の爆弾は己の「命に順番をつけてしまう醜さ」だってことかしら……。
最後に
ハイクオリティな両者の頭脳戦と心理戦。
設定も綿密に組まれていて、やられた……! と思わざるを得ません◎
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