今回は本谷有希子さんの『生きてるだけで、愛。』を紹介します。
葛飾北斎の浮世絵『神奈川沖浪裏』をピンクに染め上げたこの表紙。目を惹きます。
富士山からハートが出ているのもかわいい。
タイトルもかっこいいです。
タイトルから察するに愛が溢れる感動系かしら?
目次
あらすじ
うつ状態になり、思うようにうまく生活できない主人公の葛藤と、不器用な愛の物語。
感想
文章が最高におもしろくて、読み始めから一気に引き込まれました。
言葉選びや比喩のセンスが抜群におもしろいです。
何その表現!笑
ってなります。
うつ状態で情緒不安定な主人公の考えや気持ちだから、重くて苦しい内容のはずなのに、彼女の饒舌な語彙力に気持ちいいくらいセンスが溢れていて、笑えたり、頷いたり、ラジバンダリ。(懐かしいの出てきた)
これだけおもしろく表現されると、スカッとします。
私の言葉ではどうにも伝えきれないこのおもしろさ。歯がゆいです。
葛飾北斎の気持ちとか「ストッキング男」とか。笑わずにはいられない。
主人公ほどの荒れ方や奇行に走ったりはしませんが、私自身、約2年前に同じ診断を受けました。(今はだいぶ良くなってきています)
なので、共感する部分があります。
私も不眠症から後に過眠傾向になったので、主人公の過眠症に対する苛立ちにすごく共感するのです。
自分どれだけ寝れば気が済むんだよ。こんなに寝たのにまだ眠いのなんでだよ。時間が、1日が無駄になっていくよ……。
って、私も絶望していたので、頷く頭が止まらなかったです。
私は主人公ほどの派手な奇行に走ったりはしませんでしたが、そうしてしまう気持ちは理解できます。
唐突に来る破壊衝動のようなもの。
なった人にしか理解できないのかもしれません。
恋人との関係性も、もちろんギクシャクです。
どんなに理不尽な攻撃を受けようとも、振り回されようとも、主人公を見放さない彼。すごい男です。
「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね一生。~省略~いいなあ津奈木。あたしと別れられて、いいなあ」
本文P107より
自分とは一生別れられない。一生付き合っていかなければならない。
当たり前のことなんですけれど、心に刺さって抜けない言葉です。
そうじゃん。どんなに嫌いでも自分とは離れられないのか。
主人公が自分自身に失望している、嫌気が差していることも、この言葉から漂っていて、なんとも苦しくて切ない気持ちになります。
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終盤に差し掛かっても二人の仲はギクシャクのままで、タイトルにそぐわないな……と心配になっていたその時。
「あたしはもう一生、誰に分かられなくったっていいから、あんたにこの光景の五千分の一秒を覚えてもらいたい」
本文P110より
かっこいい!!
こんな粋な愛の言葉、今まで聞いたことない。
感動する。葛飾北斎の絵並みに感動の波が高い。波浪警報発令する。すごいや。
※葛飾北斎の描いた富士山は五千分の一秒でシャッターを押した時の一枚の構図と一致することから、北斎と富士山は何か通じ合っていたのでは? という経緯からの「五千分の一秒」です。(?)
この作品を読めばわかるはず!
最後のシーンは二人の間に、誰にも邪魔できないような愛が垣間見えて、またまた感動。
恋愛小説によくあるロマンチックな感じではなくて、些細で素朴な何の変哲もないシーン。だけどそこには大きな愛が見える。
気持ちの伝え方が不器用な二人らしいラストシーンでした。
元恋人の存在が、更にその場の愛を引き立たせていました。(彼女本人は引き立たせるつもりじゃなかっただろうが)
あ、あと冒頭と終盤に葛飾北斎と富士山のことが登場して、その物語のまとまりも、あっぱれです。
前日譚も収録されているのですが、表題作を読んだ後にこちらを読むと、二人のお互いに向ける愛情はこの時からしっかり存在していたんだなと嬉しくなります。
そして表題作の読後より、さらに二人の関係のすごさが補強されました。
この二人ならきっと、この先も大丈夫だ。
これぞ本当の愛だ。
生きてるだけで、愛だ。
最後に
よく目にする恋愛小説と一緒にしていいのかと思うほど、押しつけがましくなくて、でも強烈な愛のお話でした。
映画化もされていると知ったので、そちらも是非観たいです◎
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