本好きの秘密基地

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ヘヴン/川上未映子

今回は川上未映子さんの『ヘヴン』を紹介します。

平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞のダブル受賞をし、2022年にはブッカー国際賞の最終候補作に入りました。

2021年に英訳をされています

一冊でこんなに賞を受賞したり最終候補に残ったり、海外にまで……。

読む前から作品の重厚感がすごいです。

神妙な面持ちでおそるおそる、ページを開いてヘヴンの中へ。

 

目次

 

あらすじ

いじめを受けている主人公のもとに「わたしたちは仲間です」という手紙が届いた。

送り主と仲良くなり、お互いを励まし合うも、いじめはエスカレートしていく。

善悪、強さと弱さ、捉え方や価値観。

いじめを題材に、両者の心理や価値観を考えさせられる、読者も葛藤させられる物語

 

感想

しんどかった。苦しかった。

読む前より、想像よりも遥かに、重いお話でした。

でも、このお話は広く知れ渡るべきだと強く思いました

それくらい重要で、大事で、無視できない存在のような、存在感がずしんと重いお話でした。

今までにも、いくつもの「いじめ」を題材とした物語を読んできましたが、こんなにしんどくて、苦しくて、こっちまでもが葛藤してしまうような物語ははじめてです

いじめられている場面は壮絶で、目を背けたくなるほど痛々しい。

それなのに、丁寧なのです

言葉が、文章が、どんな時でも丁寧に紡がれているのです

柔らかくてきれいな、優しい文章。だからこそ、主人公たちに感情移入してしまって、一緒に苦しくなってしまったのかな。

 

「わたしたちは仲間です」という手紙から始まった二人の関係。

いじめられっ子同士、励まし合って、各々いじめを耐える。

最初はお互いを思い合って、支え合っているような関係に、苦しい気持ちで純粋にエールを送りたくなっていました。

それが少しずつ形を変えて、違和感に少しゾワゾワする

自分たちがいじめられる原因(個性)を、コジマが「しるし」と呼び、その「しるし」に執着し始めた辺りから、ゾワゾワし始めました。

私たちは彼女たち(いじめっ子)に従っているのではない。受け入れているんだ。

これは弱さではなくて、強さなんだ。

そう語るコジマの思想はかっこいいと思う。でもここから少しずつ、宗教的な思想と執着が強くなって

これは儀式なの。証なの。

私と一番わかり合えているのは君でしょう?

君もそう思うでしょう?

こんなことを主人公に言うようになってきて、コジマを少し怖く感じました。

主人公が斜視の手術ができるという話をした時には

「しるし」は自分たらしめるものだ。だからもっと「しるし」を大事にしなきゃ。

これは試練なんだよ。逃げるつもりなの?

とまくしたて始める。何かに取り憑かれたみたいに

同族意識からの連帯感が崩れるのを恐れてか、どんどんエスカレートして、いじめられっ子でいることに執着するコジマにも、私は目を背けたくなるのでした

でも正直、一番いろんな意味で最強なのはコジマです

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いじめっ子といじめられっ子の討論もすごかったです。

行動の理由に善悪なんてない。意味なんてない。

したいから行動する。したいことが自分にできるから行動する。欲求のために行動するのだから、罪悪感なんて生まれない

誰だって、したいことが自分のできることなら行動するように、いじめたいからいじめる。たまたまそこに、君がいただけ。

百瀬の言っていることも間違っていないと思うほどの説得力

筋が通っているから、理解はできる。

いじめっ子の肩を持つわけではないのですが、そうだよなって納得せざるを得ない。

いじめは悪だと思っているのに、私はこれに反論できないのです。(なんて無力)

でも、「たまたま」の連続で君は今、いじめられているんだよっていうのも、腑に落ちないというか。それはあんまりだと思います。残酷だと思います。

でも、まあ、そうなんだよな……。(言い返せない歯痒さ)

 

物事には全て終わりが来るもので、このいじめにも終わりが来るのですが、コジマの自己犠牲による反撃は、衝撃的シーンでした

思春期らしい残酷で卑劣ないじめ方を逆手に取って、狂気で戦を制すコジマの姿

外野の自分までもが叩きのめされた気分でした

泣きたくなりました。

ああならないと、ああでもしないと終わらないいじめって。しんどい。

結局あの後、コジマはどうしているのかな。

 

事件後、主人公はついに斜視の手術を受け、美しい世界を手に入れます

私達の普段見ている景色は、彼にとっては美しい世界。

輪郭がはっきりとして、鮮明に、キラキラに見える。

今までなかった奥行というものが見える。

その景色に感動している主人公を、私は美しいと思いました

今までずっと苦しくて、つらかった。

でも最後のこのシーンだけは美しかったです胸が締め付けられるほど感動しました

そして、育ててくれた母親がめちゃくちゃ素敵な人だなと思うのも、この時でした。

向き合ってくれて、味方でいてくれる。そんな人がこんな近くにいたんだね。

 

コジマがよく言っていた「うれぱみん」。気に入ったので、事あるごとに使う所存です。

このお話は、つらぱみん。

 

結局、主人公は「ヘヴン」を見れないまま。

コジマを支えた絵。きっと天国みたいな素敵な絵だったんでしょうね。

 

最後に

これを越えるいじめ題材小説はきっとないだろうと思うほど、ずっしりとしたお話でした。(正直あってほしくない)

善悪や、いじめの要因、人の行動倫理について、深く考えさせられます◎

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