今回は伊坂幸太郎さんの『シーソーモンスター』を紹介します。
表紙を開いてから気づいたのですが、こちらは伊坂さん発案の「螺旋プロジェクト」という企画から生まれたものだそうです。
<螺旋プロジェクトとは>
8作家さんによる競作企画で、共通のルール(モチーフ)を元に、それぞれ担当する時代を舞台にして作品を作り上げるというポロジェクトだそうです。
ちなみにこちらは昭和後期と近未来が舞台だそうです。
おもしろい企画。8作品全部読みたくなっちゃいます……!
目次
あらすじ
どうしたって分かり合えない、衝突してしまう因縁のような相手は存在する。
そんな因縁を持つ彼らがお互いを意識し、程よい距離感を探り合うも、避けられない衝突と困難に奮闘する二つの物語。
感想
昭和のバブル時代から近未来まで、色の違う時代なのに、二つの物語が緻密に絡まって組み立てられていて、気持ちいいくらい完成度が高かったです!
起承転結がはっきりしているので、盛り上がるところはハラハラするくらい盛り上がるし、駆け抜けるように猛スピードで進んでいくので「ちょっと休憩」ができない。したくない。
息が上がろうとも、引っ張られるように一気に駆け抜けたくなるおもしろさです。
息切れしながら辿り着いた先はグッとくる展開で、胸が熱くなる。
心地よい落としどころ。
やっぱり伊坂さんのお話、好きだなあ。と思わされる壮大なお話でした。
アクションシーンも迫力があってかっこいいです。
そして伊坂さんと言えば、過去作の人物や設定が使われるというおもしろい試みをされることがあります。
今作にも出てきました!
『クジラアタマの王様』に出てくる「パスカ」という電子機器。
今の時代でいうスマートフォンを更にグレードアップしたようなものなのですが、それが駆使されていました。
ということは
『クジラアタマの王様』の第四章と『スピンモンスター』は同じ時代(近未来)ということになりますね。
そういう発見も、繋がりもおもしろいです。
「螺旋プロジェクト」という名の通り、「螺旋」モチーフもしっかり登場します。(どの作品も登場するはず)
遊び心満載で楽しかったし、他の螺旋プロジェクト作品も読みたくなります。
『シーソーモンスター』
最初はどこにでもあるような平凡な家庭とその問題という感じだったのですが、妻の語りに入った途端、普通じゃなくなりました。
最初のよくある家庭問題に悩む感じも好きですが、ここから一気に伊坂さん感のある特殊設定が開示されて、楽しくてしょうがない。先が気になってしょうがない。
そして緊迫感も最高です。
クライマックスに突入する直前で、ここに来てさらに追い打ちをかける登場と設定が明らかになり、どこまでおもしろくなるんだ……! と、嬉しい悲鳴がまた出てしまいました。
とにかく姑がかっこいいです。
それまで「ネチネチ姑め!」と憎たらしく思っていた自分に教えたい。
彼女、最高にイケてるぞ。
お互いの素顔を理解して、誤解も解けたおかげで、家族問題も素敵な形に変化します。
どうしてもぶつかってしまうのだから、物理的には程よい距離で。
でも離れすぎずに、力を合わせて成し遂げる。
衝突をしてしまう因縁であろうと、お互いの程よい距離感を保ってこれからも一緒に生きる決意にグッとくるし、希望も見えてきます。
シーソーのようにバランスをとって。
そして彼女が近未来でも活躍するとは、本人も読者の私も、思いもよらないのです。
『スピンモンスター』
こちら近未来の日本でございます。
一周回ってアナログが良いとか、プライバシーも何もないとか、情報の信憑性とか、人工知能の暴走とか。
本当にそうなっていそうだなと想像できるから、ちょっとこわいです。(これからの日本が)
両者の記憶が食い違っていると気づいたあたりから、嫌な予感というか、片方の身に何か怪しいことが起きているなと感じてゾワゾワしました。
実際に近未来らしい細工が原因で記憶の食い違いが起きたのだとわかったときは、納得と恐ろしさで目がギラギラしちゃいました。
身の危険を察知して暴走した人工知能VS暴走を止めようとする元研究者。
人工知能の頭脳レベルに鳥肌が立ちました。
そして
それに巻き込まれた配達員VS誤報に踊らされる警察官。
なぜ対立しているのかと疑問に思っても、対立してしまう。
なぜなら、対立することが運命であるから。
「運も神様も似たようなもんだろ。『偶然は神様のペンネームだ』って言った詩人もいる」
本文P440より
偶然って奇跡みたいなものだし、つまり偶然は神様のしわざってことになるのか……!
かっこいいし心に残るお言葉でした。
ちなみに原型はこちらだと思われます。↓
「偶然は神が公に署名しない特別なケースのために取っておく神のペンネームである」
サミュエル テーラー コールリッジ
※ここからちょっとネタバレ要素に触れますので、ご注意を!
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寺島テラオが遺したメッセージ「オツベルと象」が意味するものとは。
こちらは宮沢賢治の『オツベルと象』という童話のことで、その最後の一文「おや、[一字不明]、川へはいっちゃいけないったら。」が彼のメッセージだったのです。
受け取った中尊寺さんは過去に、川へ入って流されたことがあるそうで、その時に助けてくれた女性に会いにいけと言っているのです。
そしてその女性がなんと『シーソーモンスター』に登場した彼女(妻)という繋がり……!
人気絵本の作者という登場だけかと思ったら、そこ、繋がるんだ!?(嬉)
それにしても、難解なメッセージだこと。
別件ですが、最後の一文の[一字不明]というのも謎めいていて気になります。
※「君」なのではないかという説が有力だそうです。
最後に
プロジェクト関係なしに、一冊でも楽しめるおもしろいお話でした。
機会があれば、他の螺旋プロジェクト作品も読んで照らし合わせてみたいです◎
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