今回は三浦しをんさんの『木暮荘物語』を紹介します。
書店で目立つところに置いあり、小泉今日子さんの帯の言葉を見て気になり、購入して積読から早1年半。(毎度のことながら)
おもしろそうです。なんとなく『めぞん一刻』を連想しています。
目次
あらすじ
古い木造アパート「木暮荘」の住人と、その周囲の、おもしろく温かいドタバタな日常。
感想
ちょこちょこ吐き出すほどにおもしろい上に、深く考えさせられるお話たちでした。
ユーモアたっぷりです。
ちょっと変、ではなくて、しっかり変人って感じで、とても愉快。
登場人物みんな個性的で、仲良くなったら毎日が楽しそうです。
全話通して性や生きること、愛や恋についての生活が展開されていきます。
それぞれの彼らの気持ちや言動について、変わってるな〜と思いながら読んでいくけれど、次第に「そもそも普通ってなんだろう」「彼らはそんなに変わっているのかな」と、自分の固定概念みたいなものを疑うようになってきて、とても刺激的でした。
『シンプリーヘブン』
なにこの人、空気読めなさすぎじゃない!?
まず第一印象はこれ。
明らかに邪魔者でしかない。
そう思っていました。
でも、じつは主人公、心の奥では彼を期待して待っていたし、めちゃくちゃ良い奴でした。
粋な奴でした。
自分を犠牲にして他人の幸せを祝福するなんて、かっこいいではないか。
ちなみに「美容師さんも」粋でした。
キュンとしました。
粋な奴だらけで、キュンなお話でした。
ちなみにシンプリーヘブン、とてもかわいいおしゃれなバラです。是非とも飾りたいです。
『心身』
おもしろかったです!
年老いても妻にお願いし、断られる。
おもしろくて、かわいらしくて、でもかわいそうで。
そんな友人に感化されて、木暮も急に取り憑かれたように求めて、真面目すぎるほどに延々と、どうしたらできるか、この方法では哀れまれてしまって心外だ……と悩む姿も、本人は苦しく悩んでいても私は微笑ましかったです。
ついにデリ◯ルさんに来てもらった時の騒動は、ハラハラしながらもめちゃくちゃにおもしろ展開。
そしてついでに、予想外にも若い入居者と打ち解けあうのだから、こんなほっこりでおもしろいお話、嫌いなわけないじゃないの。たのしかったです。
『柱の実り』
ちょっとSF感のある「柱の実り」でしたが、結局あれはキノコだったのか。それとも見える人にしか見えないものだったのか。
前田さんが纏う容姿や空気とは反対に、粋な方だったので、やはり人は見かけや雰囲気ではわからないなと思うのでした。(この本、粋な人多いね)
美禰の過去の罪は、想像しただけで胸が苦しくなるもので、たしかにこれは一生消えない傷だろうなと思いました。
美禰の過去を持っていってやると言った男のことを、男が美禰にしてくれたすべてのことを、何度も何度も思い出す。
本文P123より
この最後の一文が全てを物語っているよ……!
まじでかっこよかったっす、前田さん。
< スポンサーリンク >
『黒い飲み物』
佐伯夫人、かっけえ……!!
寡黙なマスターが、まさかそんなことないでしょと、じつは佐伯夫人のために何かコソコソ隠れて準備してましたみたいなオチでしょと、先入観で思っていましたが。
ほんと人は見かけによらないな笑
「楽に浮気できると思うなよ」
本文P147より
これには痺れた。おそろしさよりも、痺れた。
ラストシーンのマスターは見ていられないくらい無様なお姿でしたが、夫人の勇ましさと強かさにスカッとした気持ちにもなりました。
奥様は強いですね。奥様が強い家庭は平和と言いますからね。
それにしても「美容師さん」が、いよいよミステリアスで気になる。
どこかで正体現すのかしら。現してほしい。
『穴』
とんでもないやつだな!笑
悪趣味だけど、私も彼の目や耳を共有して読んでいるので、おもしろく読み進めていたので同罪ですが。
じつは気づいてたよって言われた時は私までドキッとしちゃいました。
それでも、これからも見させてくださいとお願いする神崎、肝が座っていらっしゃって笑えてきます。ここまで来ると笑えてきちゃう。
カレー味のカールを食べながら電話で「カレー食べてた」と言い繕うのは思わず吹き出しちゃいました。うまいな。
『ピース』
2人の関係が良好に保たれているようで良かったけれど
シュールな関係すぎて、これはこれでどうなの笑
亜季の身勝手さ無責任さは、さすがに私も憤り。
光子の事情知らなくても、これは酷い。
生後間もない赤さんって、めっちゃ大変なんだよ。それを無知の人に急に預けるなんて。
しかも赤さんを産む時も、連れてくる時も酷い状態で、何のつもりかと、無関係なのに私は苛立ちました。
身勝手すぎるよ。
その上、光子は自分の子を永遠に抱けないかもしれない身なのだから、なお残酷な行為……泣
とても胸が苦しいお話でした。
『嘘の味』
最後に並木の視点!
構成ばっちりです!素晴らしい!!
並木はやっぱり良い奴でした。
3年も繭を放置したうぬぼれぶりを除いてはね。
そんな言い訳は、愛の表現を怠った理由にはならない。繭の気持ちが離れていったと知って、急に動揺するなんて滑稽だ。
本文P247より
その通りよ並木。でもその気持ちもわかる。
余裕こいていたら、相手が違う人に惹かれていて焦る気持ち。
そして謎の女性「美容師さん」もついにここで伏線回収されてもう言うことなしです。
ただの謎めいたお客さんじゃなくて、しっかり繋がりがあってびっくり。
並木も繭への未練を断ち切れそうで、収まるところに収まりそうで、にっこりと本を閉じることができました。
最後に
本を閉じる頃には、木暮荘の人たちと、その周囲の人たちにお別れするのが寂しい気持ちになる。
温かくて、おかしくて、刺激的な日々を一緒に過ごした気分になるお話でした◎