今回は谷崎潤一郎さんの『神童』を紹介します。
谷崎潤一郎さんは『痴人の愛』『刺青』をよく見かけるので、その中から選ぼうかと思いましたが、かわいい装丁に読みやすくコンパクトサイズ化されたこちらを見つけたので積読していました。
もくじ
あらすじ
聖人に憧れる、周囲では神童として有名な主人公、春之助。
中学に進学したい思いが叶うが、条件に父の勤め先家族の家庭教師として奉公することになる。
奉公先の人間の影響を受けたり、思春期が訪れたり、悩まされる日々。
優れた頭脳だけでは、この世界では未熟なのだと思い知らされる春之助の自伝的小説。
感想
とても人間らしいリアルな心の移りゆきに、神童も思春期をしっかり通ってゆくのだなと感じ、おもしろかったです。
神童らしい、大人を馬鹿にする構え。
神童らしい、自尊心と自信。
そこに思春期が加わり始めて、心の不安定さ、今までは無かったいろんな欲求、自分の容姿を気にするところなんかも、しっかり思春期。
神童でも、やっぱり幼さはあり、幼さ特有の落とし穴に陥るのだなと、神がかった頭脳の限界もいずれ訪れるんだなと気づき、とても現実味のあるお話でした。
勉学をするのはとても褒められることだけれども、体も動かさないとだめだよ〜という部分には、この頃特に大共感です。
私もここ数年、時間ができれば読書ばっかりするものだから、体がバキバキだし体力も衰えている気がするのです。
少年なんて尚更、体が作られる時期なのに動かさないと、絶対体がついていかなくなるだろうと思うのです。
案の定、彼もそうなってしまっていた。(自分で気づいて良かったよ)
ほんと、頭が良くても体がへなちょこじゃ生きていけんのです。
何事もバランスだよな……とつくづく思いました。
頭脳が優れているだけでは、人間だめなのだな。
< スポンサーリンク >
奉公先での春之助の変わりようもなかなかおもしろかったです。
時に暴力的な変化には苛立ちましたが、周囲の人や環境で、価値観や性格が変わっていくという部分も表現されていて、人間って影響受けやすくておもしろいなと思います。
そして、頭が良いが故に他人を見下してしまうところが、どれだけ自分自身の価値を下げてしまうのかも、この春之助の言動や、そんな春之助を側で見る者の言動から痛いほどにわかりました。
せっかく賢くてもね。
最後、このままではまずいと己を改めた春之助。
違う道を進もうとするところで終わるのですが、その道を選んで春之助がどう変化したのか気になります。
良い方向に変わっていたら嬉しい。
そして人は、自ら過ちに気づくことができれば、人生やり直せるし変わることもできる。
そう気づかせてもくれました。
最後に
神童であることが、果たして本当に良いのか。
そして神童だって普通の人間なのだと気づかせてくれた、想像以上に深いお話でした◎