今回は青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』を紹介します。
2021年本屋大賞第2位の作品です。
青山さんは外れないし、こちらも話題作だし、期待しちゃっています、わたくし。
羊毛フェルトの可愛い表紙もお気に入りです。
(今回のブログ記事は長いぞ。心してかかれ。)
目次
あらすじ
悩みを抱える人たちが、コミュニティハウスの図書室に訪れる。
司書から奇妙な選書と付録をもらい、それらに導かれるように、それぞれ突破口を見つけていく連作短編。
感想
青山美智子さんはいつも素敵で粋なお話を届けてくださるのだけれど、私の中でまた更新されたかもしれない……!
共感するだけで終わらず、その悩みや問題をどう乗り越えるかを登場人物たちと一緒に体験している心地。
時にギクリとさせられて、でもちゃんと救ってくれる。
読んでよかった〜と何度も思いました。
司書の小町さゆりさんが容姿も性格もキャラが濃くて大好きです。
可憐な名前と、ずんぐりな容姿にぶっきらぼうな態度というギャップ。
でも、どの言葉も深くて的を射て、言葉がぎゅと抱きしめてくれる。
司書の仕事ぶりも神がかっています。
司書らしく、その人が探している本と紛れて、本当にその人が探しているものを導く本も紹介してくれて、その上可愛い羊毛フェルト付録付き。
その羊毛フェルトも、本当に探しているものに辿り着くためのお手伝いをしてくれるのです。
最高すぎやしないか。
私も小町さんにレファレンスしてほしい。
導いてほしい……!
青山さんの短編集といえば、各章の登場人物たちの交流。
今作もしっかり繋がるのでお楽しみに♪
ちなみに表紙の羊毛フェルトたちも登場人物なので、紐づけていくのも楽しいです。
※ネタバレ区域※
名言と、司書セレクトの的外れに見えて重要な本と、羊毛フェルトの意味をまとめているので、まっさらな頭で読みたい方は読んでから見にきてください!
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『一章 朋香 二十一歳 婦人服販売員』
今の仕事のままで終わりたくないと燻る気持ちに共感しましたが、それよりも周りの人たちかっこいいし、私も生活を整えたいと思うようになりました。
私は今まで、自分をなんて粗末にしてきたんだろう。口に入れるものや身の回りのものをていねいに扱わないって、自分を雑にするってことだ。
本文P53より
まさにこれよ。
ああ、私めっちゃ自分のこと雑に扱ってるわ。
忙しいからって、これはだめよね。ごめんよ。
そんな気持ちになるのでした。
沼内さんの、相手もハッピーになる華麗なクレーム対応にはもう惚れ惚れで、心構えも尊敬します。
「ああいうときのお客さまってね、自分の話を聞いてもらえなかった、気持ちをわかってもらえなかったってことが悲しいのよ」
本文P49より
クレーマーを敵とみなさず、そちら側に立って寄り添い、求めている言葉を贈る。
かっこよかったです。
相手のことをろくに知りもしないのに、勝手に苦手意識を持って距離を置く。その先入観、私もやりがちなので、身が引き締まる思いです。
そして沼内さんのカリスマ性に触れて、どんな仕事もやりがいや意味があるのだと、それに気づけてやっと仕事ができるのだと気づきました。
エデンの婦人服販売員が「たいした仕事じゃない」なんて、とんでもない間違いだった。単に私が「たいした仕事をしていない」だけなのだ。
本文P48より
これに気づくだけで、今後の仕事の捉え方がだいぶ違う気がします。
そして司書さんが彼女に贈ったリストにあった、場違いに感じる『ぐりとぐら』と、フライパンの羊毛フェルト。
今あなたに必要なのはパソコンスキルよりも、食を整えること。生活を整えること。
というメッセージが込められていたのかもしれませんね。
『ぐりとぐら』も、意外に深くて、捉え方が様々さでおもしろいと思いました。これを機に読み返したいです。
『二章 諒 三十五歳 家具メーカー経理部』
主人公は現実的で、しっかりしていて、だからとても共感する部分が多くて、まさに私だ……と重ねてしまうことが多かったです。
「時間やお金、勇気がない」ではなくて、それらを持つことを目標にする意識に変えるとか
時間がない中でも、少しずつ夢の準備としてできることがあるとか。
「大事なのは、運命のタイミングを逃さないってことじゃないかな」
本文P111より
とか。
意識の仕方次第で、状況は変わる。勉強になりました。
世界は信用で回っているという考えも説得力があって、また意識も変わりました。
今回の司書セレクトは『植物のふしぎ』と羊毛フェルトの猫。
またこれがどうヒントになっていくのか皆目検討もつかず。
植物の地上(実や花)と地下(根)のような仕事の形もあるということ
そして猫は、ヒントのある場所「キャッツ・ナウ・ブックス」を示していたのですね。
『三章 夏美 四十歳 元雑誌編集者』
子育て中の私にはクリティカルヒット。
何度か泣いちゃいました。
主人公の身動きの取りづらさ、嫉妬心、羨望、嫌悪感。何もかも私だと思いました。
だから、いづみさんの言葉の全てが突き刺さる。
いづみさんLOVE。
嫉妬心や羨望を「メリーゴーランド」に例えるところはオシャレでしっくりもきて。
遊園地は広い(そのメリーゴーランドを降りて、自分の環境や考えを変えなさい的な)という言葉には惚れ惚れ。
「人生なんて、いつも大狂いよ。どんな境遇にいたって、思い通りにはいかないわよ。でも逆に、思いつきもしない嬉しいサプライズが待っていたりもするでしょう。結果的に、希望通りじゃなくてよかった、セーフ!ってことなんかいっぱいあるんだから。計画や予定が狂うことを、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も」
本文P169より
この言葉に救われて、視界が明るくなりました。
思い通りにならない日々。
でもそれって、どんな状況でも当たり前のことで、思い通りにいかなくて逆によかったわ〜っていう出来事もたしかにあります。
その予定が狂うことも、不運も、悪いことだけじゃなくて、逆にチャンスに変えてくれていたり、自分自身を成長させてくれたりする。
逆に嬉しいことに転がったりもする。
そう考えると、どんと構えていられる気がします。
今回の小町さん名言はこちら。
「人生で一番がんばったのは生まれたとき。その後のことは、きっとあのときほどつらくない。あんなすごいことに耐えたんだから、ちゃんと乗り越えられる」
本文P147より
これは私も出産を経験して、より感じます。
もちろん母(私)もがんばったんだけれど、息子は意味もわからぬまま、術も知らぬまま、出せる力の限りを使って、苦しみに耐えて、この世界に出てきてくれたと。
小町さんの言葉で、そうか私もそうだったのだと気づきました。
私も頑張って出てきたのだ。
忘れてしまったけれど、あれを乗り越えてきたのだから、これから起こる困難だって乗り越えられる。
壁にぶち当たったら、この言葉を思い出したいです。
主人公の転職先が、とても明るく穏やかでフレンドリーで、私もそこで働きたいと強く思いました。すっごくいいな、この職場。
今回の司書セレクトは『月のとびら』と地球の羊毛フェルト。
この本から、思い通りにいかないことは当たり前のようにあって、それを乗り切るために変容することなどを伝えたかったのかもしれません。
そして地球は、天動説のような自分主体、受け身の見方から、地動説のような自分が動く見方を教えてくれたのですね。
それにしても、小町さんの恋バナ気になる……笑
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『四章 浩弥 三十歳 ニート』
好きなことを仕事にできないことと、不器用で失敗しがちで仕事が続かないこととのダブルパンチ、きついですね……。
せめて仕事が上手くこなせれば生きやすいのにって思いますよね。
兄が優秀だと尚更、自分を卑下しちゃう。
居場所がないって、本当に息苦しい。
そんな中で、図書室という居場所を見つけ、その図書室で読む本から考えを改めて、仕事ももらい、自信がつく。
主人公は小町さんたちとの運命的な出会いをして救われたようにも思います。
今回の司書セレクトは『ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界』と飛行機の羊毛フェルト。
ダーウィンが有名だけれど、ウォルスという学者もいた。不憫なウォルスを強く想うことは、ウォルスの居場所を今ここにつくることにも繋がる。
誰かを想う気持ちは、その人の居場所になる。
そう気づいて、誰か1人でも自分の絵を印象的に想ってくれたら、それでいいではないかと思えるようになった主人公。
そんな居場所を教えてくれた本でした。
飛行機は、文明の利器で人々の世界や概念を変えたもの。
万人に受け入れられなくても、いつか受け入れられる世界が来るってな感じの意味だったのかなと思っています。
『五章 六十五歳 定年退職』
最後の章なだけあって、今までの人々が繋がって登場したり、謎だったことが発覚したりした爽快なお話でした。
繋がる度にニヤニヤしてしまいます。
そして私は、このお年頃のおじいちゃんが出てくるお話が好きなんだなと気づきました。
真面目で不器用で可愛い。
詩の魅力、楽しみ方も伝わってきて、詩集読んでみようかなという気持ちになります。
さて今回の司書セレクトは『げんげと蛙』とカニの羊毛フェルトです。
この本の中でも『窓』という詩に惹かれる主人公。窓から見た世界。
カニは、食べ物でもありペットにもなる。カニさん歩きで視野が大きく見えるワイドビュー。
社会から孤立してしまった気持ちでいる主人公に
視野を広く、見方を変えて。
そういうメッセージがあるのかなと思いました。
「人と人が関わるのならそれはすべて社会だと思うんです。接点を持つことによって起こる何かが、過去でも未来でも」
本文P302より
会社勤めでなくなっても、誰かと接することで社会と繋がる。
特に定年退職者や、事情があって会社を離れたにはとても希望的言葉です。
「前ばっかり見てると、視野が狭くなるの。だから、行きづまって悩んだときにふっと、見方を広く変えてみよう、肩の力を抜いてカニ歩きしてみようって思うの」
本文P309より
この発想には霧が晴れる思いでした。
苦しい時って大体視野がすごく狭まってる。
そうでなくても狭まってるんですが。
カニさん歩きをしてみると横に大きく見ることができて、景色が違って、いつもは目に留めないものに気づいたり。
私も実践してみようと思いました。
最後に
司書さんのくれる本のリストも羊毛フェルトも謎解きみたいにおもしろく、そして生きるヒントがたくさん詰まった素敵なお話でした◎