本好きの秘密基地

読んだ本への思いをありったけ書いていきます。読みたい本探し、本の感想を共有したい、おすすめ本がある(いつでも募集中だよ)。そんなアナタの場所でもあります。コメント欄で意見などを待っています。(誹謗中傷NG)

チュベローズで待ってる/加藤シゲアキ

今回は加藤シゲアキさんの『チュベローズで待ってる』を紹介します。

加藤シゲアキさんと言えばNEWSですね。アイドルですね。

何年か前に『ピンクとグレー』を読んだとき、アイドルの書く小説だからと甘く見ていましたが、これが衝撃作ですごくて

十分に立派な作家さんだと、多才な方なのだと、思い知らされました。

ということで、こちらも話題になっていましたので、文庫化を待ちに待って、そのくせ積読して、期待値高めで読んでいきますぞ!

 

目次

 

あらすじ

就活に失敗し、留年してまた就活生として生活をすることに決めた主人公。

しかし家庭の金銭事情が厳しく、ホストにスカウトされデビューする

自分を不採用にした企業の面接官だった女性が彼を指名し、もう一度試験を受けて内定をもらってほしいと言う。

そこからホストと、彼女から就職試験対策の指導を受ける日々が始まった。

努力の結果、内定はもらえたものの、彼女が謎の死を遂げる。

 

10年後、主人公は職場で大活躍し有名な存在になっていた。

知り合いの通夜で、彼女の甥と再会し、彼と共に彼女の死の真相を探ることになる。

彼女はなぜ主人公を就職させたかったのか。

そしてなぜ、命を絶ってしまったのか。

 

感想

テンポがよく、先も気になるので、あっという間に読了でした。

終盤の怒涛の展開。

そして種明かしの内容に心臓がドクドクしました。

目がギラギラでした。

刺激的なお話で、ミステリー、お仕事小説、恋愛小説、どのジャンルも盛り込まれています

でも見どころはやっぱりミステリー要素。

美津子はなぜ、ここまでして光太を就職させようとしたのか。

美津子は本当にパワハラをしたのか。

美津子はなぜ命を絶ったのか。

一体何があったのか。

美津子の動向はとにかく謎めいている。

そして真相を知ったときに、美津子の壮絶な人生に胸がすごく痛い。

さらに真相のその先、美津子の本当の気持ちを知った時は、安心なのか悔しさなのか、いろんな感情が混ぜこぜになって、でも自分が感動しているのは間違いなくて、うるっと来ました

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主人公22歳編(AGE22)、主人公32歳編(AGE32)と2冊に分かれている形なのですが、同じ作品でも雰囲気が違うように感じます

上巻にあたる22歳編では、ホスト界の厳しい現実や就活のリアル

下巻にあたる32歳編では、お仕事小説とミステリー、若干のSFっぽさ

といった感じの作風です。

ただ繋がっているのではなく、一冊をまたぐとテイストが変わるというところも、この作品のおもしろポイントです。

もちろんのことですが、AGE22を詠んだらAGE32を読まずにはいられません

AGE22のラストで衝撃的な事件が突然起きるのだから。

その事件の背景を知りたくて、すぐさまAGE32を開いてしまう。

伏線回収が見事になされ、カオスともいえる狂った真相発覚シーンにアドレナリンが最高潮。

ちょっと苦しい気持ちになり、そのまま終わるのかと思っていたら、救いなのか後悔なのかを思わせるグッとくる事実

構成が、勢いが、本当によくできていて、あっという間の2冊でした。

 

最後に

アイドルとしての加藤シゲアキさんしか知らない人よ、是非読んでみてくれ。

たまげるぞ。

最初から最後まで疾走感を維持し、事のインパクトも強いエンターテインメントでした◎

 

 

異邦人/原田マハ

今回は原田マハさんの『異邦人』を紹介します。

第6回京都本大賞を受賞した作品です。

ドラマ化もされているそうです。

帯の「美しさ」は、これほどまでに人を狂わすのか。という言葉に惹かれて積読していました。

久々のマハさん、わくわくです!

 

目次

 

あらすじ

2011年の震災の影響で起きた原発事故の被害から逃れるために、妊娠中だった菜穂は京都へ一時避難することになった。

そこで無名の作家の作品に魅了される。

徐々に深刻化していく家族や夫との軋轢、そして血縁の真実、作品への情熱、京都という美の都への執着。

芸術を愛し、芸術に狂わされる、甘美な美術小説。

 

感想

絵という芸術に対する情熱が、やけどしそうなほどに熱く伝わってくる。

美術作品の持つ引力や魅力を改めて感じました。

菜穂が無名作家の作品にのめり込んで、狂うように、あの手この手で支援しようと、世に押し出していこうとする姿に、彼女の本気が見えるし、気持ちもわかるなと思う。

財力があったら、私もお気に入り作家さんを全面的に押し出したいし、援助したい。

夫の気持ちも、現実的に考えたらわからなくもないけれど、好きなものに惜しみなく投資する菜穂の方に気持ちが傾きました

 

絵のことだけでなく、家族や血筋の要素も衝撃的な真実が明るみになっておもしろかったです

志村照山と白根樹の、師弟関係以上の関係性

その複雑な関係になった経緯が壮絶で、樹がどれほど自分を抑えてきたかを想像すると苦しいです

その抑えたものを発散させて出来上がったものがきっと、彼女の素晴らしい絵なのでしょう。だから、他にない魅力が溢れ出ているのでしょう。

じつは菜穂も……という展開になり、ここも複雑なことになっていて、さらに菜穂と樹のデータを並べると浮かび上がる繋がり

なるほど。だからお互いに惹かれ合ったのか。

2人の繋がりが見えてから、菜穂と産まれた娘、そして樹が並ぶ姿を想像すると、なんとも美しい光景。

夫には悪いが、この3人がもう一括りに家族に見えるのでした。

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読み始めは、表紙絵がなので、なんとなく海外が舞台かなと思っていたら、日本の古都である京都

京都のお祭りや風習、四季の移ろいも読む中で感じる事ができて、京都の魅力も満載

京都、やっぱり素敵だな~。行きたいな~。

「異邦人(いりびと)」というタイトルも、京都が舞台だからなのです

よそ者をなかなか受け入れない感じ。

つまり、東京から来た菜穂や一樹は、京都人から見れば異邦人。

そして京都への「入り人(いりびと)」

タイトルも奥深いです。

 

原田マハさんの作品は、今まで実在した作家をモチーフにしたものしか読んだことがなかったのですが(たぶん)、架空の無名作家のお話も同じく迫力があって、魅力的で、おもしろかったです。

マハさん大好きだと、改めて認めました。(別に認めてなかったわけではない)

 

ドラマのキャストも、白根樹がSUMIREさんと知って、ピッタリすぎて嬉しくなりました。是非とも観たいです。

 

最後に

芸術を愛する人たちの情熱がとても伝わって、こちらまで熱い気持ちになりました。

京都への旅のお供にもしたい一冊です◎

 

殺人よ、こんにちは/赤川次郎

今回は赤川次郎さんの『殺人よ、こんにちは』を紹介します。

とてつもなく物騒なタイトルですが、中村佑介さんのイラストでポップな雰囲気の表紙で、読みたくなりまして。

ずいぶん昔の作品で、これまたずいぶん昔にドラマ化、コミック化もされたそうです。

 

目次

 

あらすじ

パパが死んだ。

13歳の主人公は、夏休み中に過ごす別荘で母から再婚相手を紹介されるが、その男が自分の父親になることが嫌だった。

その瞬間、彼女に殺意が芽生える。

同時に夏休みのバカンス中に出くわす物騒な事件に、周囲の人間が関係している可能性も出てくる。

事件の全貌、そして結末が衝撃的なサスペンスミステリー。

 

感想

13歳の少女が主人公だからか、物騒なタイトルとは裏腹に軽快で読みやすい

テンポよく、そしてユーモアに進行しながら、でも事件は割と本格的でおもしろかったです。さすが赤川次郎さん。

事件の全貌が明らかになった後の主人公の行動には、良い意味でゾゾゾッとしました。

主人公、やりおるな。

13歳にしてはしっかりしていて、でも幼さもあって。

というのが、それまでの印象でした。

最後のシーンは幼さなんて吹き飛んでいる。

やっていることは怖ろしいけれど、淡々としていて、怖れも何もなくて、少女とは思えぬ貫禄です

事件のことに気を取られて、そもそも彼女の殺意のことを忘れていたけれど、ここでその殺意が召喚されるとは……!

そんな彼女の、その後。続編の『殺人よ、さようなら』も気になります。

 

タイトルの『殺人よ、こんにちは』からお気づきの方もいるかもしれませんが、フランソワーズ・サガン悲しみよこんにちはを基盤にしているという遊び心もおもしろいです。(読んだことないけれど)

物語の設定にも共通点があるみたいです。

そちらも名作だから、いつかは読みたいとは思っていましたが、その気持ちがさらに増しました。

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最初の事件である赤いワンピースの女の事件

全く知らない人だから、犯人がこの中にいるとは思えないなと思う。

そうしたらじつは婚約者の知人だったと判明して、こやつが一番怪しいけれど、アリバイとか動機とかで、確証が持てない。

もう全然わからなかったです。お手上げです。

お話の雰囲気で、優しいふりして、全然優しくない

そしてまさかの人物が繋がってきて、このお話は意外にも本格的なミステリーだったと思い知る。

そして事件の目的、目論見が生々しくて、怖ろしい。

親族間の闇がとてつもなくリアル。

親族(特にお金持ち家系)のドロドロ関係、陰謀、いとおそろしや。

 

そういえば主人公の殺意はどこへやらと思い出したころに、総括するように華麗な畳みかけ展開が繰り広げられて、良い意味でえげつない……!

主人公の最後のセリフがまた、ゾクゾク感を増幅させる。

とてつもない大仕事をしておいて涼しい顔の彼女が、魔性の女に見えました。

とはいえ

頭もきれるし、精神的に安定しているし、母親よりもしっかりしているし。

主人公のキャラが魅力的でした。

 

最後に

気軽に読めるページ数で、内容もとても読みやすい上にしっかりしたミステリーなので、小学生から忙しい大人まで、どんな方にもオススメできるお話でした◎

 

スモールワールズ/一穂ミチ

今回は一穂ミチさんの『スモールワールズ』を紹介します。

第43回吉川英治文学新人賞受賞、2022年本屋大賞第3位の作品です。

本屋大賞ノミネート時から、表紙がかわいくて気になっていて、文庫化までどうにか待ちました。

一穂ミチさん、『光のとこにいてね』が苦しくも美しい感動系だったのですが、今回は短編集というのもあるし、どんな感じなのか気になります!

 

目次

 

あらすじ

夫婦、姉弟、親子、他人など。それぞれの「小さな世界」で起こる、衝撃と温かさを含んだ7つの短編集。

 

感想

表紙とタイトルの雰囲気から、ほっこり癒し系のお話たちなのかなと想像していたら違って、ギャップにやられました

実際に読み始めは、ほっこり展開になっていく予感を感じさせる流れだったのですが

そ、そうなる……のか!

という意外な辛口展開で、ありきたりな展開では終わらなかったことで、私の中でぐぐんと評価が爆上がりしました。

そして7つのお話が、それぞれ違う色をしているので、同じ作家さんが書いたように感じさせないのも、この短編集のおもしろポイントです。

イヤミスみたいなゾクッとするものや、ほっこり感動するもの、独特な雰囲気で余韻が残るもの。

幅が広い短編集なので、これはどんな展開になっていくのかと、わくわくしながら読めてしまいます。引き込まれます。

印象は違えど、どれも個人という「小さな世界」のできごと

ひとつの大きな世界の中に、こうしてたくさんのバラエティに富んだ小さな世界が存在している。

そして自分自身が見て感じている、今この日常も小さな世界なんだと、おもしろく感じる。

この本には7つの、そんな世界が集められている。

なんて素敵で、秀逸なタイトルなのだろう。

 

どれも、もう全部好きなのだけれど

『ピクニック』『花うた』はドキドキでゾクゾクっとしたので特にお気に入りです。

『魔王の帰還も良かったなあ……。

これは好みが出ますね。

私、イヤミス系が好きだから刺激的なお話タイプなので。

感動系もかなり衝撃的な真相が隠されていると弱い。

 

ネオンテトラ

最初に書いた「ほっこり系かと思ったら違った」はこれです。

びっくりしたわ、この展開……!

孤独を感じる人たちが、その孤独を埋め合う的な感じのお話っぽかったのに、最後にすごい展開ぶっこまれて

え? えぇ? えぇ~!?

でした。(こういうサプライズ展開、最高)

最後の主人公の心情は、ちょっと特殊に思いますが、表面上は「面倒事を引き受けてくれた良き叔母」という感じで、こういう外と内の違いもまたおもしろい

 

『魔王の帰還

お姉ちゃん大好きだわ。

最高じゃん。かっこいいじゃん。素敵じゃん。

お姉ちゃんが帰還してきた理由は、胸が締め付けられるくらい苦しくて、でも感動しました。

お姉ちゃん夫婦が、それぞれにしっかり愛して尊重し合っているのを、言葉にされていなくても伝わってきて、尊いです。

お姉ちゃんは関係ないのですが

同級生の女の子が家庭事情で、酷いことを周囲に言われているけれど、反論する気になれないと零した時に

「お母さんは、新しいお父さんとうまくやっていきたくて、そのためなら嘘ついて娘をディスってもいいって思った。いい悪いじゃなくて、その気持ちの強さに住谷さんは勝ててないんだと思う。住谷さんの、ここで楽しくやっていきたいみたいな気持ちが。だから力吸い取られてやる気出なくなる。気持ちって物理なんだと思う」

本文P80より

傷ついた言動を上回るほど、じゃあ私はここで楽しくしていくぞという気力が湧かない。それくらい、その言動がダメージ大きくて

わかるな。見返してやろうとか、どうでもいい気にしないとか思えないくらい打ちひしがれることってある

「気持ちって物理」っていうのはすごいな。名言だな。

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『ピクニック』

こんな幸せオーラむんむんの家族にも、ここまで来るのに、いろいろなことがあって、それを踏み台にして、ここまできたんだよ。という感じで始まるこちら。

事件のにおいがしますね。

これは読んでいてつらいものでした。

でもこのイヤミス感、ゾクゾクする。

誰も悪くない。

良かれと思って。幻想と勘違いして。

だからこそ、胸が苦しい。

そして語り部が、あの子だったとは……!

 

『花うた』

往復書簡形式のお話です。

「そこから見えてくる2人の気持ち」という感じかなと思ったら、またまた予想外

長い月日をかけた手紙のやりとりの中で、変化していく2人。

そのどんどん変わっていく状況が、怖くて、不安になる

どうなっちゃうの……?と若干泣きそうにもなる。

そこから、さらに事態は予想外な展開になっていて、一気に目が覚めました。

思わぬサプライズ展開に、素敵だなと思いつつも、壁がたくさんで複雑でもある

最後に秋生が書き上げた、2人をモデルにしたであろう物語で、胸が熱くなりました。

結果、超素敵。超最高。

 

『愛を適量』

このタイトル、すっごく良き。

愛情のつもりで注いでいた過剰な思い入れは、誰の得にもならなかった。受け取る側のキャパを見越して適量を与えられないのなら、何もしないほうがましだ。

本文P251より

愛情という名の思い入れ。つまり、お節介とか世話焼きとか。

やっちゃうんですよね。良かれと思ってというか、自分なりに愛を注ぎたくて注いじゃうというか。

それをやり過ぎて、相手に不快がられることもある。

レシピ本でもそうですが「適量」という表現は曖昧で、どれくらいがちょうどソレになるのか、よくわからない

人には、愛を適量。この表現、すごくしっくりきます。

このお話もね、衝撃走る急展開があってびっくりでした

親子愛を育むほっこりなお話かと思ったら、裏切られた感じです笑

でも最後の最後はお互いに素直になって、素敵な締めくくりを見ることができました。

 

式日

遠慮してか、自分のことをあまり言わず、相手のことも突っ込んで聞かないでいた先輩後輩。

それを少しずつ、ぽろぽろと、零していく感じが、なんだか雰囲気があるなと思いました。

「だって、好かれるって恐怖だろ」

「嫌われたらそこで終わりじゃん。好かれたら始まっちゃうから、そっちのが怖いよ」

本文P316より

なるほどな~。

好かれたら面倒なことになるって、そういう相手もいるよね……。

このままの関係でいたいのにとか。

でも、誰にでもそうじゃないと思うのですよ。

この人には好かれたいっていう人もいる。

難しい。

 

『スモールスパークス

落ち着いた大人の雰囲気漂う掌編でした。

そうか。そういう成り行きで一緒になったのか。

たしかに、別にわざわざ離婚しなくてもって思う。嫌いじゃないのなら。

でも最後のシーンは長年連れ添った仲にある、素朴な気遣いと安心感が滲み出ていて、とても気持ちいい読後感でした。

 

最後に

良い意味で予想外な内容で、どのお話も雰囲気が違うのに、すっと引き込まれる引力みたいなものが強くておもしろかったです◎