今回は佐藤正午さんの『月の満ち欠け』を紹介します。
第157回直木賞受賞作です。
来月(2022年12月2日)映画が上映されます。
私のリスペクトしている方が読まれているのを機に購入したのですが、それで満足して読んでおらず。
映画化されるニュースで思い出し、せっかくなら映画を見る前にと考えて、やっと読みましたので、ここに報告させていただきます。(事務的)
※タイトルに掛けてムーンティーをお供に読書
目次
< スポンサーリンク >
あらすじ
目の前にいる少女は、娘の生まれ変わりであるという。
そして娘は、この前訪ねてきた男性の恋人の生まれ変わりだという。
月が満ちて欠けることを繰り返すように、私は生まれ変わる。生まれ変わったら、またあなたに会いに行く。
非科学的な現実を目の前にした人たちの、愛の物語。
感想
生まれ変わりというファンタジー要素のあるお話なのに、現実的な物語の進行。
ファンタジーなのに現実味がある。普通はない正反対の2語が同棲している奇妙な感覚。
だから読んでいる間、白けた気持ちにならない。
そんなことあるわけないじゃん、無理あるよ。って思わない。
むしろ、本当に生まれ変わりがあるのかもしれない、あったらいい。そう思ってしまうくらい物語に引き込まれました。
不思議です。夢のようなファンタジー設定なのに、なんですんなり腑に落ちてしまうのだろう。生まれ変わりの存在を信じたくなるのだろう。
ファンタジー的な物語なのに、なんで現実感があるんだろう。
お話の構成、文章に説得力みたいなものがあるからなのかな。
佐藤正午さん、初めて読みましたが、すごい。
世間的には許されざる恋に落ちた女性。
「もしあたしに選択権があるなら、月のように死ぬほうを選ぶよ」
「月の満ち欠けのように、生と死を繰り返す。そして未練のあるアキヒコくんの前に現れる」
本文P185より
恋人にそう宣言した彼女は、本当に生まれ変わって、何度も彼に会いに行く。
彼が歳をとっても、生まれ変わる度に彼を探し出して、会いに行こうとする。
「瑠璃も玻璃も照らせば光る」を合言葉に。何度も。
許されざる恋ではあるけれど、健気で、色あせない一途な愛。
何度生まれ変わっても、時が経っても、彼だけを目指して生きる彼女の一途な愛は、まさに本物の愛です。感服です。
彼の方も、生前の恋人の言葉を信じて、生まれ変わった彼女が現れるのを一度は諦めたけれど、確信して、何度も待っていて、色あせない愛を感じました。
最後のシーンなんてもう最高でした。
最後の2行は会心の一撃。涙腺、ときめきの気持ちがズドンと刺激されました。
お互いが再会できること、生まれ変わりの事実を信じなければ叶わなかった、見られなかった景色。必ず最後に愛は勝つ。
さらに終盤でもうひとつの愛の物語が発覚し、加速するサプライズ。
「生まれ変わってでもアキヒコくんと会いたい、そう念じて、あたしがこうなったのなら、ほかにみ生まれ変わる資格のある人はたくさんいるよ。小山内さんの奥さんだって、愛の深さでは全然負けてないし、有資格者のひとりだよ」
本文P367より
え、まさか……!?
そこもか! 愛の力って素晴らしいなあ、おい!涙
作品中の自然な会話のやりとり、テンポの良さも、読みやすくて現実味のある雰囲気に感じるポイントです。
心地よい会話です。
バイト仲間である中西との会話が程よくゆるくて、個人的に好きです。
というか中西の存在がいい。場を和ませてくれる。
生まれ変わる女性の時系列が4代目まであるので、たまに混乱します。
何度生まれ変わっても、なかなか濃くて短い人生、同じ名前、同じような最後を迎えるからかな。
でも、読んでいるうちに理解し直すので大丈夫です!
でも生まれ変わって、彼に会える寸前で、運命の女神のいたずらに遭うのは胸が苦しいです。あとちょっとだったのにと、悔しい気持ちになります。(最後の4代目では報われるが)
繰り返しになりますが、本当に再会シーンに感動しました。ふたりの一途な愛が報われた瞬間。
ちなみに解説に代わる特別寄稿は伊坂幸太郎さん!
これも読みごたえがあります♪
最後に
どれだけ時が経とうと、姿が変わろうと、一途な愛を持って会いに行く。信じて待つ。
誰かを愛したくなる、今までよりもっと愛したくなる。会いに行きたくなる。そんなロマンティックであたたかい素敵な作品でした◎