今回は湊かなえさんの『落日』を紹介します。
人気有名作家さんである湊さん。イヤミスの女王と呼ばれているほどの実力があるのですが、じつは読んだことがありませんでした。(自分に驚く)
イヤミス好きなのに。
ドラマの『リバース』は当時、毎週楽しみにしていたくらいハマっていたので、作品を読む前から湊さんに信頼を置いています。期待値ハードル高めです。(読む前からハードル上げたらいけないのわかっているのに……)
きれいな表紙デザインということも、手に取った理由であります。
目次
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あらすじ
一躍有名になった若手映画監督は幼少期、ベランダの仕切り越しに、手だけでコミュニケーションを交わした隣人の友だちのことを忘れられずにいた。年月が経った頃に事件が発生し、あの手の子が被害者だと悟る。
事件のあった町出身の駆け出し脚本家と手を組んで、事件を映画化するために、事件とその関係者の詳細を探る。
感想
凄すぎた。あんなにハードル期待値を高くして読んでいたのに、圧巻でした。
人気作家なのも頷けます。(何目線だよ)
冒頭のミステリアスで絶対良からぬことが起きる雰囲気がドキドキでゾワゾワでたまりません。(ドM発言みたい)
何か所か、途中で先(真実)を予測できる部分があって「自分冴えてるな~」と自惚れていましたが、終盤からは私の憶測は的外れ連発だったので、湊さんの前半わかりやすい伏線で読者を油断させて、最後にたたみかける作戦だったのかな、まんまとはまってしまったな……と敗北を認めざるを得ませんでした。(だから何目線よ)
最後の最後にオマケ的な形で、他の誤解事実を覆す展開があったのですが、オマケレベルではないくらい感動的で、救われる思いでした。
裁判からは客観的な事実しか得られない。マスコミからは噂、その延長にある妄想、世論というフィルター越しの詳細しか得られない。
私は今までそれを全てだと思って鵜呑みにしてきましたが、語られない本当の真実があるという可能性にも重きを置くべきかもしれないと思いました。テレビや新聞の情報だけが全てではない、と。(マスコミをディスっているわけではないよ!)
本当は性悪なのに、被害者になったら美化される。
本当は善人だったり、苦しい思いに耐えていた人が、加害者になったら酷い評判を作り上げられ、叩かれる。
このシステムは現実にも溢れていると思います。
事件だけじゃなくて、いじめやトラブルでも。
第三者が面白半分で作り上げる虚像、フィルターを無視できるようになりたい。良くも悪くも真実をちゃんと知りたい。その上で考えたい。
そんなことを考えたりもしました。
監督と脚本家。この2人の主人公の接点は、昔住んでいた町が同じ。
それだけだと思っていたのに、じわじわと複雑に、2人の過去が、2人の周囲が繋がっていく。繋がる予感がする度にゾクゾクして、じっくり読みたくなる。
すべてが繋がった時は相関図を描きたくなりました。
世間って狭いですね。現実に生活していても、それはよく思います。
脚本が終盤に描かれているのですが、それがまた切なくて、でも愛情が感じられて最高でした。
特に印象的な場面があります。
死刑判決を下された彼が、指先でリズムを刻む場面。映画のワンシーンのように頭に鮮明に浮んで、美しいものに見惚れるような、でも寂しいような気持になりました。
そこから更に展開する、幼少の頃のベランダでの記憶が蘇って、当時の監督の存在を思い出す場面も、感極まります。
姉との関係も、まさか……! と思ったものの、そこまで深い関係だとは思いもしなく、ちょっとキュンです。
個人的に『スターウォーズ』大好きなので、ちょっと出てきただけですが嬉しかったです。お父さん、いいよね~、スターウォーズ!
きれいな夕日が見える場所がキーワードみたいに何度も出てきたので、それで『落日』なのかと思っていましたが、人の営みの繰り返しや「再生」という意味を込められていたそうです。深い。(解説に書いてありました)
最後に
イヤミス要素はありつつも、感動の幕閉じだったので、どちらかという感動ミステリーでした。
切なくて、苦しくて、でも温かい。心が満腹です◎