本好きの秘密基地

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丸の内魔法少女ミラクリーナ/村田沙耶香

今回は村田沙耶香さんの『丸の内魔法少女ラクリーナ』を紹介します。

タイトルだけ見たら児童書っぽくて、スルーするところですが。

村田沙耶香さんが書いたとあらば、これはシュールな物語な予感がする。

丸の内OLが魔法少女になった気分で、社会のあらゆるちょっとした悪を成敗していく的な!?

かなり期待大なのですが、こちらも1年くらい寝かせていましたよ。(買って満足するタイプです)

 

目次

 

あらすじ

クレイジーな心と世界で当たり前の根本を問いただす4つの短編。

 

感想

やはり村田沙耶香さんの世界はクレイジーで最高でした!

期待を裏切らない!!

そしてクレイジーな中で、当たり前になっていることについてを疑わせてくれる

考えさせられる。

今まで当たり前のように疑いもなく感じていること。

その危うさ。

今一度、普段の生活に当たり前に存在する〇〇とはなんなのかと考え込みたくなる作品群でした。

 

この短編集に共通する題材は執着と魔法

正義への執着と妄想という魔法

初恋の相手への執着と初恋という魔法

男女という性への執着と無性(ミステリアス)という魔法

失われる感情への執着と時代に順応する魔法

なんともおもしろく、でもメッセージ性もある。

いろんな意味で強い作品でした。

 

『丸の内魔法少女ラクリーナ』

主人公のミラクリーナじゃなくて正志がぶっとんでたわ!

途中までは

ああモラハラ彼氏ね〜。やばいよね、別れるべきよ絶対。

と当たり前のことを感じながら読んでいたのですが、いやコヤツとんでもなくキャラ濃すぎ

まさか魔法少女になることを承諾するとは。

しかも仕方なくではなく、乗り気とは

しかもしかも、誰よりも乗り気とは

恥ずかしげもなく高らかに変身したり名乗ったりするのも、読んでいて笑っちゃうけどハラハラする。

しまいには正義がエスカレートして、もはや公害

この展開に最初は「がはは!まじか!!笑」でしたが、「うぐっ、まじか……(引き気味)になりました。

「まじか」という言葉の意味のボキャブラリーにも気付かされるね。(脱線)

大人になるということは、正義なんてどこにもないと気付いていくことなのかもしれない。

本文P39より

小さい頃は皆、正義はあると信じていた。

大人になって、正義なんてないという現実を知り、失望する。

そもそも正義とはなんなのか、わからなくなる。

自分の信じていた正義が、正義ではないのかもしれないと気付く。

大人になって、正義という魔法から、夢から醒めてしまうのだ。本当にそうだなと思うのでした。

 

そんな感じなのですが、最後はまさかのグッと来る終わり方で、思わず拍手してしまいました。

長く続いている友情って、かけがえのないものだなとも思いました(かなり振り回されもするがね)

青春は永遠なのかもしれない。

そして大人になっても遊び心は大事だね。

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秘密の花園

爆弾のような衝撃作でした

こういうの大好物。

ネタバレになっちゃうかもですが、序盤の"私は、同じ大学の早川くんを監禁している"という第一次爆弾がたまらん

この一文だけで

やだ、やばいやつじゃ〜ん♪(どこのおばさん)

なんでそんなことになったん?!

事件のにおいと好奇心で、おもしろ話確定です

そこからなぜ監禁したのかが少しずつ明らかになってくると、違う感情になり、なんだかエモくなり。

初恋はどうすれば消滅するのだろう。答えは一つだった。私は、自分の初恋を葬る準備を、着々と進めていたのだ。

本文P86より

初恋の消滅の仕方。これは永遠の課題だと思っていたので、すごく興味あるぞ。

まあ監禁した理由は初恋を消滅させるためなのですが、具体的に監禁してどうするのかがすっごく知りたくなります

 

そしてクライマックス。

初恋をついに葬るのですが、最中に急に違う意味での過激的展開が待っていました

ミステリーではないけれど、ミステリーのような種明かしをくらったような感覚

思ってたんと違う!

でも断然、この展開のがおもしろい!!

主人公が強すぎて、その強さにスカッとさせられまして、最高オブ最高。

 

『無性教室』

ジェンダーレスが流行っている今の時代。(流行っているという表現は違う気もする)

だからこそ、どこかリアルに感じて、将来本当にこんなことが起こるのではないかとゾッとしました。

ジェンダーレスが良くないわけじゃないのよ。

それで救われる人は絶対いるし。

でもそれが行き過ぎると、このお話のような世界になる気がして、恐怖

でも、こんな世界に実際になったら、慣れてしまって当たり前になったら、そうでもないのかな。

今の時代から見るから、このジェンダーレス徹底世界を異様に感じて怖くなるのかな……。

 

『変容』

こちらも社会の変化に怖くなる系のお話ですが、おもしろい要素があって好きです。

ワードセンスがおもしろいのですよ。

エクスタシー五十川

とか

パブリック・ネクスト・スピリット・プライオリティ・ホームパーティー
略してパブスピホムパ
(精神のステージを上げていくための交流会です)

とか。

「パブスピホムパ」に関しては、もはや呪文。

 

このお話は世代が代わって、ある感情が消えつつあり、それに自分もついていけるかという感じのお話なのですが、「怒り」がなくなるって穏やかで争いもなくて良いことじゃんって、最初は思いました。

でも読み進めていくと、怒りがないって、なんだか不気味

人間じゃないみたい。

やはりどんな感情も人間たらしめるものなんだな。

どの感情も人間らしさがあって、大事なんだなと実感しました。

「怒りって、大切な感情じゃない。そりゃあ、喧嘩になったり怒鳴りあったりするのは冷静じゃないかもしれないけど、でも、怒りって、それだけじゃないでしょ? もっと、本当の自分がめらめら燃えているような、そういうパワーのある、美しい気持ちじゃない。自分自身にとって大切なものを守ろうっていう、素晴らしい感情じゃない。悲しい、だけじゃカバーできないことがたくさんあるんじゃないかな」

本文P176より

この言葉で、更に「怒り」の大事さを感じるのでした。

喜怒哀楽、どれも素晴らしい感情ですね

失ってわかる。(失ってはいない)

 

最後に

エンタメとしても最高におもしろい内容ですが、おもしろいだけじゃ終わらない。

「当たり前」について向き合いたくなるお話でもありました◎