今回は恒川光太郎さんの『夜市』を紹介します。
ずっと読みたかったのですが、なぜかずっと後回しにしていた作品。
100分で楽しむ名作小説として再登場し、カバーが素敵だったので、この機に即購入!(通常版もそそられる装丁だけれど)
ついでに同じシリーズも衝動買いしたので、サクッと読めるしちゃちゃっと読みたいな。
さてさて、ずっと読みたかったこちら、期待を超えるか。
目次
あらすじ
同級生に「夜市」に誘われ、気が進まなかったが行く事に。
そこには、この世とは別世界が広がっていた。
夜市から解放されるには買い物をしなければならない。
同級生は昔、夜市で弟を売ったという。
その弟を買い戻すために再び夜市に訪れたというが……。
人間の欲望を怖ろしいほど思い知る悲しくて儚い物語。
感想
角川ホラー文庫とあるので、ビビりながら読み進めて行きましたが、まあ確かにホラーな要素はあります。
でもトラウマになるほどホラーではなかったので大丈夫よ、怖がりさんたち。
私としては、妖艶で幻想的な、悲しくて切なく、儚い物語という印象でした。
胸が締め付けられるような悲しさと、でも夜市の世界の魅惑的な美しさに酔いしれてしまうような。
短めなお話しなのに、想像力を掻き立てられるからか、何もかもが印象強いからか、長編を読んだかのような満足感。
アニメも観たいな~と思ったのですが、今のところないみたいです。意外。
中村佑介さんとか芥見下々さんとか吾峠呼世晴さんとかの絵で観たいな。
(京都とか怪談、和テイストな作家さんってことだな)
作品の魅力
♢幻想的な世界観
ひっそりとした夜の森。
灯りが見えてくると、そこにはいわゆる妖怪たちが市場を営んでいる光景。
青く妖しく輝く、提灯のような人魂。
奇妙な商品たち。
実際足を踏み入れたら恐怖ですが、想像すると幻想的で見惚れてしまいそうです。
私にも夜市の魅惑引力が働いているのか、世界に吸い込まれていきそう。
そして眠りこれは夢の一部となる。
などの場面を区切る文が詩的で、情緒があって、作品の雰囲気をより一層、夢のような空気に仕立て上げている気がします。
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♢「夜市」の設定
みんなが来れるところではない。
夜市が客と認めた人が招かれる。
とか
何か買い物をしないと夜市から解放されない。
とか
買えなかったら夜市に取り込まれちゃうかもね。
とか
まっとうな商人は殺せないが、まっとうではない商人(詐欺とか)はオッケー。むしろ排除してくれてありがとう!
とか
たくさんの違う世界から客が来ていて、流通している貨幣ならどれでも使える。
とか
夜市は、人間は三度しか来れない。
とか
こういった、しっかりと細かい設定があるから、想像が膨らんで楽しいです。
♢全てのことに意味がある(伏線がある)
老紳士が刀を手に入れたかった理由や、老紳士が”人攫いは嘘をついている"と見抜いた理由などが、老紳士の語りによって明らかになって、繋がっていく感じがスカッとします。目が醒めるように。
たまたま偶然そうだった、ではなくて、しっかり大きな意味のある言動だったんだなと、鳥肌が立ちました。
♢作品を通して感じる人間の本性
元の世界に帰りたいがために弟を売る。
なんて怖しいことを……と、恐怖と怒りに似たものを感じました。
でももし、自分が同じ立場にいたら、じゃあどうしたというのだろう。
助かる方法が「弟を売る」しかない。
2人で夜市に飲み込まれるか。
何をしてでも、たとえ自分だけだとしても脱出するか。
究極の選択。彼を責められないなとも思う。
でもやっぱり、弟を売るって、残酷すぎるよ……泣
欲しいもの、望むものがあるならば、何かを犠牲に差し出さなければならない。
そんな夜市の世界から、人間の底抜けな欲望と、その欲望の怖ろしさを痛感しました。
どうしても欲しい何か、望む何かがあった時、私だったら何を犠牲にしてそれを手に入れるのだろう。
最後に
幻想的な世界と儚さに酔いしれて、人間の無謀さを痛感する印象深い名作でした◎