今回は歌野晶午さんの『葉桜の季節に君を想うということ』を紹介します。
このミステリーがすごい!2004年版、本格ミステリベスト10で第1位。
す、すごい……。ミステリー賞を総なめしているではないか……!
帯の
最後の1行まで
あなたの心を離さない
に心を掴まれました。
そろそろ葉桜の季節なので、ついにページをめくっていきたいと思います!
目次
あらすじ
今までいろんな経験をしてきた主人公は、同じフィットネスクラブに通う知り合いに、ある調査を頼まれた。
さらに、心を通わせられる運命の女性を熱望していた主人公は、ある女性を救い、彼女と運命の出会いを果たす。
頼まれた調査を進めるに連れて、意外なところに行き当たる。
感想
そ、そんな……!
なんたること……!!
唖然として、混乱させられます。
今まで読んできた情報が掻き乱されます。
少し冷静になって、状況を把握したところで一度整理したい。
状況を把握したと言っても、自信がない。
紙に一度書き出さなければ、自分の理解が本当に正解なのか安心できない。(心配性の発揮)
それくらい、予想外ぶっとびちゃぶ台返し炸裂なのです。(褒めています)
間を置かずに次々とひっくり返る事態。
目がまわる。
あなたは誰? 状態。(まじで)
これはたしかに二度読みしたくなります。心もがっちり離されない。
『ハサミ男』みたいなパンチがあるのですが、あのパンチが炸裂で即KOです。
恋愛小説としても、ミステリー小説としても
どっちを取っても優れています。
2足の草鞋。(使い方合っているのか?)
どっちも怠っていないです。(それはそうよ)
恋愛小説要素もミステリー要素もレベルが高いと思います。
ちょっとグロテスク描写が2度ほどひょっこり顔を出しますが、語り口調は軽快でユーモアがたっぷりで読みやすいです。
実在の店、場所、商品、人物もサラッと登場するので、小説の舞台への親近感が増し増しです。
恋愛論もなかなかリアルな男の心の声を聞けた気がします。
最後のシーンはもう素敵すぎて、読後感はうっとりします。
「葉桜の季節」って、そういうことだったのか……!
このタイトルの秀逸さに感動しました。
詳しくはネタバレ区域にて。
登場人物にも魅力が溢れております。
後輩はイメージに反して純粋で、恥じらいがあって可愛らしい。
主人公の妹は快活で、お茶目で魅力的。
親戚の子は独特な雰囲気を持っていて、受け答えが最高。
そして主人公は、饒舌で発想がおもしろい。
個性的な人物が多いのでコミカルに進んでいき、ミステリーも重く感じないです。
最後のシーンでの、主人公の持論には、この先の人生に対して勇気と希望をいただきました。
この持論を読んだら、この先の人生が楽しみになってきます。
歳を取るのも悪くない。
ちなみにこのお話の舞台は主に夏から秋にかけて。
でもちゃんと最後に「葉桜の季節」の意味が回収されます。素敵です。
※ネタバレ区域※
ここからはネタバレ区域です。ご注意ください!
< スポンサーリンク >
過去のむごい変死事件は、なるほど納得という種明かしでした。
モヤモヤは晴れ渡り、まさにヤクザの世界だなと、腑に落ちる事件と真相でした。
問題はメインの方です。
成瀬将虎は安さん(安藤士郎)を名乗っていた。
更に麻宮さくらは、戸籍上は安藤さくらであり、正体はあの古屋節子だった。
安藤士郎も麻宮さくらも既に亡くなっている。
2人とも、目的の本質は違えど、死者の身分を乗っ取っていたということです。
つまり
安藤士郎→既に自殺して死亡
成瀬将虎→安藤士郎を名乗る
故人の要望に応えるため年金を不正受給
麻宮さくら→蓬莱倶楽部により抹殺された
古屋節子→蓬莱倶楽部の命令で麻宮さくらを名乗る
安藤士郎が生きていると勘違いし、
保険金殺人を目論む
不正に安藤と入籍し、安藤さくらとなる
ややこしや。嘘つきばっかり!
さらにさらに、とんだミスリードにより混乱。
てっきり皆さん若者だと思っていたのですが、高齢者だったと発覚。
え、そうなると、いろいろ辻褄合わなくない……?
でもよく考えたら、ジムも学校も援助交際も、高齢者ではないという理由にはならない。
高齢者も対象範囲内なのです。
先入観にまたしてもやられました。騙されました。
先ほども書きましたが、最後のシーンの成瀬の持論が素敵ですね。
いくつであろうと関係ない。
世間的には高齢者に分類されようとも、今と昔の自分の気持ちは変わらない。
歳だからと諦めるのはもったいない。
いくつになっても夢を持っていいし、やりたいことをやっていい。
この持論に、歳を取るのも悪くないなと思うのでした。
私もずっとロマンを胸に人生を謳歌していきたいです。
「花が散った桜は世間からお払い箱なんだよ。せいぜい、葉っぱが若い五月くらいまでかな、見てもらえるのは。だがそのあとも桜は生きている。今も濃い緑の葉を茂らせている」
本文P466より
言われてみればそうだな。
桜はずっと生きているのに、存在しているのに、春以外は見向きもしない。
人生と重ねてしまいますね。
「葉桜の季節に君を想うということ」とは、人生の老いた時期に君に恋するということなんですね。
タイトルがほんと秀逸です。
桜の花は本当に散ったのか? 俺の中ではまだ満開だ。丈夫に産んでくれた両親に感謝しよう。
本文P468より
素敵じゃないですか。
要は気の持ちようですね。
人生終わっていないのに諦めるなんてもったいないです。
まだ散っていないのだから。
人生を諦める節子にそのことを改めて問いかけて、彼女が首を振った時の雰囲気がロマンチックで、人間歳を取っても、このロマンチックな空気は変わらないんだなと嬉しい気持ちになりました。
どっからどう見ても正真正銘、素敵なカップルでした。
最後に
ミステリーとしてもおもしろかったのですが、副産物と思っていた恋愛要素が最高で、人生の見据え方がガラッと変わる素敵なお話でした◎
< スポンサーリンク >