今回は村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を紹介します。
まずカラフルで可愛らしい表紙に惹かれまして、さらにタイトルが不思議で気になっていた作品です。
色彩を持たない……多崎つくる……?
どういうことなんだ。白黒の世界を生きているのか?
では2024年1冊目始動です!
目次
あらすじ
高校時代からの仲良しグループから突如、訳もわからぬまま拒絶されてしまった多崎つくる。
歳月を経て、自分が当時なぜ追放されたのかを知るために、グループの一人ひとりに会いに行くことに。
そこには更なる奇妙な謎があらわれる。
色彩を欠いた多崎つくるの巡礼から、何が見えてくるのか。
感想
村上春樹さんなので、ちょっぴり難しい言い回しなどがあるのですが、村上春樹作品の中では比較的読みやすいのではと思います。(まだ数冊しか読んでないけどね!)
そしてミステリー要素がいくつもあるので、先が気になっておもしろかったです。
このお話の主たる謎「多崎つくるはなぜ仲良しグループから排除されたのか」は、多崎つくるがグループの仲間たち一人ひとりを訪ね行くまさに巡礼していく過程で明らかになっていくのですが
どうしてそんなことになったのか
彼女の事件の真相はなんなのか
大学時代の友人はなぜ急にいなくなったのか
恋人とはどうなったのか
などの細かな謎は残されたままで、そのことによって賛否両論あるみたいですが、私としては余韻が残って、考察のしがいもあって、この終わり方もアリだなと思います。
それにしても、多崎つくるが一人ひとりに会いに行く度、私はヒヤヒヤでした。
だって、あんな拒絶してきた相手だよ?
かつて親しかったとしても、あんな絶交のされ方した人たちに、のこのこ会いに行くなんて自殺行為よ。どんな扱いされるかわからないじゃない! また更に傷つけられるかもしれないじゃない!!(他人のことなのに臆病の発揮)
※実際は、拒絶の事情が事情だったので、お互いにとって良い方向に転がったのですが。
主人公多崎つくるがとても人間み溢れるキャラクターなのも読み応えあるポイントのひとつだと思います。
死生観、エロス、才能や個性。
それらに真剣に悩む彼の姿が、他人事とは思えなくなる時も。
特に才能や個性といったものについては。
周りが個性的な人たちであるばかりに、自分には秀でたものもないし、これといった持ち味もないと感じてしまう。
多崎つくるほどではないかもしれませんが、私も自分を無個性だと感じてしまうことがたまにあるので、それを感じてしまった時の虚しさや不安、焦りには共感するものがありました。
でも彼は冷静沈着で、私にはわりと魅力的に見えます。うん。(好みの問題)
「生きている限り個性は誰にでもある。それが表から見えやすい人と、見えにくい人がいるだけよ」
本文P315より
この言葉、とても素敵。
多崎つくるも救われただろうな。
そうなのよね。自分の個性を全面に出せるアピール得意な人と、自分を主張することが苦手な人がいるものね。
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地味に印象に残っている場面がひとつあります。
それは6本の指を持つ人(多指症)のお話です。
今までそんな事例を聞いたことがなかったので、実際に存在して、それもまあまあの確率で多指症の人がいるそうです。
それなのになぜ当たり前のように見かけないのか、増えていかないのか、ということについての議論もおもしろく、結論も納得いくもので、ずっと頭に残っています。
「どんな言語で説明するのもむずかしすぎるというものごとが、私たちの人生にはあります」
本文P257より
これはグサッときました。
外国語に訳せないだけでなく、母国語ですら言い表せない感情や物事ってありますものね。言葉にできないことは、案外たくさんある。
最後、恋人とどうなるのかについては、読者に委ねられる形で終わるのですが、どっちに転んでもおかしくない雰囲気なのよな。
なんとなーく、おじさんの方を選ぶんじゃないかなっていう感じもします。
答えを出すのに時間をちょうだいっていう前置きされると、なんだか嫌な予感(良い返事をもらえない)を感じるのは私だけだろうか……。
最後に
謎が残る部分はありますが、タイトルの意味と、主たる謎は解けておもしろかったです。
これからも村上春樹作品に挑戦していこうと思います◎