今回は彩瀬まるさんの『眠れない夜は体を脱いで』を紹介します。
カシワイさんのイラストが好きで、今回もパッと目が留まって、つい。
帯の言葉も、経緯は知らないけれど突き刺さる。
彩瀬まるさん。名前は度々見かけるのですが、どんなお話を書く人なんでしょう。
目次
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あらすじ
ある不思議なネット掲示板の書き込みに辿り着いた、自分自身や相手に違和感を感じて悩む人たち。それぞれに苦悩と闘い、違和感を受け入れて前に進んでいくほのかな希望を放つ5つの物語。
感想
体を脱ぎたい。そんな感覚になったことがある人は多いと思います。
外見の印象で、どんな人か勝手に決めつけられたり、値踏みされたり。
体が思い通りにならなかったり。
男女という性の枠組みから違和感、窮屈を感じたり。
子ども、大人というライフステージで制限や概念を突きつけられたり。
挙げたらきりがないのですが、不自由さを感じて体が邪魔だなって、そうなることが誰しもあると思います。
このお話に出てくる人たちに共感したり、逆に固定概念が自分にもあるという気付きがあったりする。
どんな人も悩みを抱えていて、闘っていて、頑張って生きているな~と、私も前向きに生きてみようと思わせてくれる、素敵なお話でした。
あるネット掲示板の書き込みを、たまたま通りすがって目を止めただけの、姿も身分も知らない彼、彼女たち。
一瞬だけだけれど、彼らが交わった瞬間があるって、大袈裟だけど縁みたいなものを感じます。ほっこりします。
その書き込みの影響というわけではないけれど、その後、いい方向に彼らの気持ちが傾いていくのも、その書き込みを見た一瞬が、じつは本当はちょっと影響していて、彼らの体を脱がせてくれた(何者でもない自分にしてくれた)からなのかなと思ったり。
……何言っているのか、自分でもわからないけれど。(パニック)
あるネット掲示板の書き込みを見て、無意識に自分を形作る鎧を脱いで、気持ちが軽くなったのかなと思うのです! (伝われ!)
『小鳥の爪先』
痛感しました。私も色眼鏡で見ていたことを。
わかっていてもやっぱり最初は外見で人を判断してしまうのです。
イケメン美女のみなさん。今まで、そう思われることで、勝手に期待されて勝手に見損なわれるという、一方的な周囲の決めつけに苦しんでいるなんて、思いもしなくてごめんなさい……!
他人から見たら恵まれている個性でも、じつは本人はそれに捕らわれて苦しんでいることもある。
そんな勉強になりました。皆よ、枠を越えていけ。(どうした急に)
『あざが薄れるころ』
登場人物みんな魅力的でした。特にお母さん。
主人公の立場だったら、悪夢で毎回叩き起こされるのにうんざりするのは当然なのですが、微笑ましくてかわいい。2人のやりとりをニコニコと眺めていたいです。
女性の一般的とされるような振る舞いや価値観を持てないでいる自分に対し、少し引け目を感じていて、やるせなさ、もどかしさに悶々とする主人公。
ふと、そんな自分が、今まで好きなように生活できていることに気づいたとき、お母さんのおかげだと同時に気づく。
お母さんは自分を変な子とは言うけれど、こうあるべきという価値観や概念を押し付けてこなかった。受け入れて、好きなようにさせてくれていた。変な子のままでいされてくれた。
なんて素敵なお母さんなんだろうと、ほっこりした気持ちになりました。
主人公の個性、生き様がかっこいいのは、お母さんのおかげなわけだ。
『マリアを愛する』
青春の甘酸っぱさと、ロマンティックな意外性。
文面から、設定を誤認して読み進めた(誘導された)結果、違うんかい! が二度あって、おもしろかったです。刺激的。(ミステリーじゃないのに騙された感が強靭)
最後に、このお話の主題である映画のスピンオフみたいな回想があるのですが、涙腺が緩みました。
この恋は叶わないと諦めながらも、すっごい好きだったんだなっていうのが伝わって、儚くて切なくて、うるっときちゃいます。
『鮮やかな熱病』
時代についていけなくて、イマドキのものを受け入れられないおじさんのお話です。
楽しいこと、やりたいことに流れていこうとする周囲に、昔の固定概念から外れよようとする周囲に、憤りを感じる主人公。
お金にもスキルにもならないからと蓋をして諦めた、本当は好きだったもの。
それは鮮やかな〇〇。(ネタバレになっちゃうから伏せます)
おお、これはまさに「鮮やかな熱病(パッション)」だ。
それを思い出して、再び触れたとき、主人公はやっと周囲の新しい動きを受け入れられたのです。
特に一昔前は、亭主関白とか男尊女卑とか、堅苦しい固定概念が存在していて、それを叩き込まれてこの歳まできたら、そんなすぐには受け入れられないですよね。習ったことを訂正されても困惑しますもんね。言ってること違うやんってなるのと同じ。
でも何かきっかけがあれば人は意識や概念が変わるのです。
めぐみさんの趣味も運命の出会いみたいな発覚で、ニコニコしちゃう幕閉じでした。
『真夜中のストーリー』
このお話も意外性と固定概念、思い込みによって、ちょっと驚きな展開を繰り広げます。ハラハラもします。
ゲームのアバターはまさに自分の体を脱ぐことができる手段です。
そこで自分じゃない誰かになることで、出会うはずのない誰かと出会って、そのアバターという鎧を取ってもお互い受け入れられる。素敵な世界でした。
最後に会う日、ゲーム内でしたことを再現するように、おそろいをプレゼントするセンスにキュンとしました。
さらに、アバターを消して、違う姿でも、お互いをネットで見つけ、出会いなおせたら……というくだりはロマンティックで、キュン死。
ちょっと、この前読んだ『月の満ち欠け』みたいだな~と、ひとりニヤニヤしておりました。
最後に
自分の体に対する「ままならなさ」と向き合いながら、希望を持って前に進むみなさんに、ほっこりと元気をもらいました◎