今回は、坂木司さんの『和菓子のアン』を紹介します。
インスタグラムのフォロワーさん達が紹介しており、最初は表紙デザインがシンプルで、タイトルからも特に惹かれなかったんですが、それ以降もいろんな方が絶賛していたので、あらすじを確認したところ、面白そうな予感が……
目次
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あらすじ
デパ地下の和菓子屋さんが舞台で、お客さん達の抱える様々な謎を、和菓子の知識を通して見抜いていく、解決していくお仕事ミステリーです。
人が死んだりしない平和なミステリーなので、本格ミステリーが苦手な方も安心安全のミステリーとなっております。
見どころ
読みやすいです。普段小説を読まない方や、小説の表現や言葉が難しくて苦手……という方には特におすすめしたいです。ゆるい感じの文体なので、スラスラ読めちゃいます。マンガ並みに。敷居が高くないです。
もちろん小説をよく読む方にもおすすめですよ!
ただ、普段から難しめのお堅い小説を読んでいる方は、最初のうちは、そのゆるさに戸惑ってしまうかもしれないです。(私的調査によるものです)
そして、ここが個人的に一番どハマりポイント!
和菓子の豆知識がおもしろいんです。(私、専門的な豆知識大好きでして)
和菓子それぞれの由来、意味、繋がり、季節、歴史、物語、風習
そして和菓子の材料の違い、専門用語(隠語)
更に茶席のしきたり……
とにかく、和菓子のおもしろさがたくさん出てきて、勉強になったり、誰かに教えてあげたくなったり。まさにトリビアの泉です。へぇ~。(古っ)
もう今ここで、この作品で得た和菓子知識を披露したい……(留まれ、留まるんだ私……!)
こんな感じで、和菓子のいろいろを知ってしまった事により、私は和菓子好きへ転向した次第であります。
今までは、お餅の溶けたおしるこ、そして粒あんが苦手で(こしあんは大好き)、どちらかと言えば洋菓子派。いや迷わず洋菓子へ走っていた私ですが、和菓子の魅力とおもしろさに気付いた私はもう止まりません。和菓子派へ速攻チェンジ。変わり身の速さ。(数か月後はわかりません)
更に、もうひとつの見どころが登場人物です。
主人公はもちろん、みつ屋(この作品の舞台である和菓子屋さん)の人たち皆が個性強くて目が離せないです。私もこの中で働いてみたです。
お客さんたちもまた魅力的だから、お客さんの数だけ謎があるわけです。
いや、和菓子の数だけ謎があるのか。(どっちでもいいか)
感想、考察
ここから先は作品の一部文章を抜粋してお送りしますので、若干ネタバレ要素ありです。見るか見ないかはあなた次第。(都市伝説か)
『和菓子のアン』
この一話目が個人的に一番おもしろかったです。この時点で和菓子愛が既に芽生えました。
『一年に一度のデート』
2人のお客さんのデートっぽい話が並行して進むんですが、2人とも全然違う意味合いのデートで、特に杉山様の話はなるほどぐっときました。
『萩と牡丹』
ここでもおもしろい和菓子豆知識が繰り広げられておりました。思わず「へえ!」と声に出してしまうほどの。
「和菓子は俳句と似てるんだ」
「俳句は短い言葉でできた詩の中から、無限の広がりを感じることができる。でも知識がなくても言葉の綺麗さは伝わるし、知識があったらその広さはもっと広がる。ね、似てるでしょ?」
本文P173より
本当それ!あんな小さなお菓子にいろんな表現や歴史や意味が詰まっている。
美味しい、かわいい、きれい、だけでも十分楽しめるけれど、そのお菓子の背景を知るとより沁みます。
「お菓子の名前って、駄洒落とか言葉あそびみたいなものも多いんですよね。そういうのって、一つの文化だと思うんです」
本文P212より
それだからおもしろいんですよ、和菓子って。でも、これを一つの文化だと喩える店長、センスかっこいいです。私服ダサいけど。
『甘露家』
この話はかなり最後まで謎めいた感じで楽しかったし、読後感も心温まりました。
「洋菓子と和菓子の違いを思い出したから、言っておくわ。それは、とても単純なこと。この国の歴史よ。この国の気候や湿度に合わせ、この国で採れる物を使い、この国の人びとの冠婚葬祭を彩る。それが和菓子の役目」
本文P298より
なるほど。私も疑問に思っていたんです、この二つにどんな差があって洋菓子派に偏りがあるのか。作品中にもありましたが、洋菓子派が目立つけれど、実際はどちらも同じくらい人気で和洋折衷状態。二つに大きな差はない、どちらも人気だとわかったものの、でも、それぞれの魅力は何なのかはっきりしたい所に、この名言。
説得力のある解釈で、納得です。(満場一致で可決)
そう考えると、昔の和菓子職人はすごいですね。常温でも大丈夫なように工夫した材料や作り方、厄払いや節句などのしきたり(習慣)に合わせたモチーフデザインや語呂合わせ。
日本だけではなく、洋菓子だってそれぞれの国の歴史の中で工夫されてできたもの。
和菓子も洋菓子も昔の人が生み出して、現在も生き残っている。
深いですね……!
『辻占の行方』
へえ、私たちのよく知るあれ、辻占って言うんだ!?
暗号が使われるところ、ミステリー要素があっておもしろかったです。
最後に
和菓子好きの方はもちろんの事、そうではない方にとっても素敵な読書体験になると思います。
それにしても、こういうほのぼのとしたミステリーは誰も傷つかなくていいですね。
続編があるので、そちらも後々、読んで載せたいと思います◎
写真:上生菓子『濡れ燕』と新茶『つゆひかり』を頂きながら