本好きの秘密基地

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生命式/村田沙耶香 ※少しネタバレ要素あり

今回は、村田沙耶香さんの『生命式』を紹介します。

こちらの作品はインスタのフォロワーさんも読んでいて、更に書店で平積みされているのをよく見かけて気になっていました。

 

目次

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あらすじ

命や人間の身体の事、価値観、不思議な世界や考えなどが題材となり描かれた12作の短編集です。

 

感想

表紙のイラストがポップでカラフルなのでかわいいなと思いきや、イラストの手元には内臓が……!

かわいいの中に物騒なものが並んでいます。表紙から既に不穏な雰囲気が出ていました。

今からまあまあ大事なことを言います。

用法用量を守り、食事前後は避けてお読みください。人によっては食欲不振などの副作用が現れる場合がございます。(その代わりダイエット効果てきめんかも)

 

帯にあった文学史上、最も危険な短編集!

本当にいろんな意味で危険でした。背筋がゾクッとするような内容や描写、それを普通としている作品の世界にドン引きでした。ぶっとびました。

世にも奇妙な物語みたいな世界でした。

異常で不穏なこの話を読んでいると、今思う正常や普通、固定概念が覆されて、一体何が正常で何がおかしいのかわからなくなってきました。(未だ混乱中)

壮大な思考の迷子状態

普通と思っていることも、時代が変わればおかしく見えるのかもしれません。逆に今ではありえない事が当たり前になっているかもしれません。生命式みたいに。

 

ちょっとホラー要素のある作品が多い中にもたまに、かわいらしいほっこりする作品や、素敵だなと思う作品もありました

私が好きだなと思った作品は大体このタイプの話です。

『夏の夜の口付け』『二人家族』『大きな星の時間』『魔法のからだ』『かぜのこいびと』です。多いように見えますが、なんせ12作品ですよ。そりゃ多くなりますよ!

ちょっとホラー要素あるけれど『孵化』も好きです。

※ホラー要素:ここでは幽霊とかじゃなくて、人間の考えの狂気(って言っていいのかどうか)に対するゾクゾク感を指しています。

 

※ここから先はネタバレ少し出るので気をつけてくださいね!

『生命式』

CDアルバムで言ったらリード曲ですね。

タイトルに抜擢されただけあります。一番インパクトが強くて印象に残っているお話です。今の世界から見たらぶっとんだ内容の世界でした。

人肉を食べる事、食べたら受精する事が神聖な事という未来の価値観の変化に何とも言えない違和感が……。

実際に少子化問題はあるし将来に生命式が導入されてもおかしくないのかもしれないなと思うと、背筋が凍りました。

 

「○○さん美味しいかなあ」「○○さんが入った鍋」という表現が地味にホラー。想像するとちょっとグロいので気をつけて読みたいところです。

「正常は発狂の一種でしょう?この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います」

「僕たちは正常なんです。たとえ100年後の世界で、このことが発狂だとしても」

本文P50より

正常だと思っていることも、ある世界から見れば発狂なのかもしれませんね。例えば、今の私たちから見た第2次世界大戦時は「発狂」だと思うけれど、当時の人たちは「正常」だと思っていたのだから。世界や人は変わり続けますからね。

これ読んだら、焼き肉当分行きたくなくなりました。

 

『素敵な素材』

こちらは遺体をリサイクル。ヒトからつくられたものは高価で素敵という世界です。

最初は引きましたが、途中から耐性がついたのか、私の固定概念がぐらつき始めたのか、この世界を少し受け入れて読んでいました。そんな自分がちょっと怖かったりもします笑

「私たち、同じ言葉でお互いの価値観を糾弾してるの」

本文P67より

人によって価値観は違いますが、果たしてどっちが正常の価値観なのか。そもそも正常なんてものがあるのか。

この話で「正常」が更に不確かなものに感じました。

 

『素晴らしい食卓』

ここまでが強烈にぶっとんでいたからかおもしろくて笑っちゃいました!

食文化の多様性を極端にした感じ。めちゃくちゃなんだけれど、それがおもしろかったです。

「私たちは食べ物の信者になることで、奇妙なものでも口に入れているの」

本文P87より

たしかにレストランで邪道な組み合わせ食材が出ても、シェフが作ったものなら美味しいのかもと信じて食べますね。

妹の魔界都市ドゥンディラスの話、もっと詳しく聞きたかったです!笑

 

『夏の夜の口付け』

めちゃ短いのに素敵な空気感でした。

「わらびもちって、男の子の舌と似てるのよ。(省略)キスしてるみたいな気持ちになるから」

本文P112より

この喩え、素敵だなと思いました。

 

『二人家族』

私も「結婚できなかったら一緒に住もうね」って友達と言い合っていた事あります!忘れてた。

それを実現して、子どもを一緒に育てて。素敵な家族じゃないですか。

 

『大きな星の時間』

これも一瞬でしたが、童話を読んでいる感覚で好きです。優しさが溢れている。

「いつか、一緒に気絶しようね」

本文P130より

なんかプロポーズみたいできゅんです。(違う)

 

『ポチ』

危険系きた。

ポチの正体がだいぶ怖いです。これを飼おうとするのも狂気を感じるけれど、ポチ、一体何があったんだ!?どうしてこんな事になった!?(そっちが気になる)

 

『魔法のからだ』

珍しく現実味のあるお話でした。思春期のみんなに読んでほしい。

きっと下ネタで騒いでいる人の心がすんってなります。(伝われ)

 

『かぜのこいびと』

結論、三角関係になったのかな。カーテンと。

ちょっとファンタジー要素のある、かわいくも切なくもあるお話でした。

 

『パズル』

最後、寒気がしました。ぞわっと。狂気がぶっとんでました(?)

前半も少し大丈夫かこれは?と思っていましたが、人を内蔵呼びするあたりから確信。ラスト普通にこわいです。

 

『街を食べる』

途中までは素敵な話で油断しました。まさか急にこんなゾクゾク展開になるとは……!

ラストで洗脳しようと呪文みたいに喋るの鳥肌立ちました。

自分の良いと思っている事を押し付けるのは行き過ぎると一種の狂気になってしまうんですね。ここまでにはならないと思うけれど、他人に何かお勧めするときは気をつけねば……

 

『孵化』

これは普通にあると思います。主人公は極端だけれど、仕事中の自分、友だちとの自分、家族との自分ってほぼ無意識にキャラとか雰囲気って違うと思います。本当に無意識下で使いわけてる気がする。

でも、最後のシーンはやはりゾクッとしましたね。婚約者の変わりように。

旦那を「マザー」って呼びたくないわ!笑

 

最後に

どの話も短いのに濃くて、当たり前が全部覆る感覚に圧倒され、不思議な読書体験でした。

なんだか大切な事(正常、常識とは)に気付かせてくれたようにも思います◎